OBR

□終盤戦
54ページ/72ページ








44




こんな筈ではなかった。
なんて思いながら、この先あたしは死ぬんだろうか。

少なくとも今、自分は一段と好ましくない状況に身を置いていた。何だかんだで、信のないクラスメイトと一緒にいるのだ。しかし今さら後悔しても遅すぎた。追い払える内に、ズバッと追い払えずにいた自分のせいだ。

土屋直実(女子9番)は、そのクラスメイト二人と共に二階の窓を見上げていた。傍からすれば、完全に睨み上げていた。足を被弾し、その間断ない激痛が直実の顔をずっと顰めさせている。
そう、大怪我。ちくしょうめ。痛くて痛くて仕方ないのもあるが、それよりも腹立だしいのは、これで一人になりづらくなってしまったということだった。

何を考えてるかわからない他人と大所帯でいる事と、ポンコツになった足を抱えて一人でいる事。本音からいえば、一人になりたい。しかしこれは、リスクの問題だ。
直実は更に顔を歪ませる。

「燃えてるな…」

傍らで呆然とした声を上げたのは、鵜飼陽平(男子3番)だ。直実同様、窓から見える正面校舎の2階を見上げて立ち尽くしている。
彼の言う通り、その2階の窓からは黒い煙が上がり、時たまオレンジの光が明滅していた。直実たちは北西校舎からその異変を発見した所だったのだ。

「燃えて……って、火事?じゃん!」

隣りの三好里帆(女子18番)がそう引きつった声を出す。
「でもっ、さっきまでいたじゃんね、あたし達!嘘でしょ、燃えてたの?」

「間一髪だったんか…。っていうか、まだ一階には燃え広がってなかったんじゃない?」
「こっわ……え…、大変。だ、誰が消すの?消さなきゃまずくない?」

里帆はブンブンと勢いよく、二人のクラスメイトを交互に見やる。そしてはたと何かに気づいたように首を傾げた。

「まぁ……。すでにもう、大変な目にあってるけどさ。あたしら…。ちょっと、こういう時ってどうすりゃいいのよ?!」

「し、知らないって……」

直実は無言で正面校舎を見渡す。その勢いから、今頃は一階に火が回っていてもおかしくないように思えた。
あと少しでも正面校舎でモタモタしていれば、火にまかれていたかもしれない……そう考えると胃の辺りがざわついた。この足じゃ、全力で逃げられもしない。

「ひょっとしてプログラム中止になったりとかしない?火消すよね?」

「いやぁ……そりゃないんじゃないか」

「だってほっとくの?この辺り、木ばっかりだよ?あのナントカカントカって政府の奴らも巻き添えでしょ。消火しに来るんじゃないの」

直実は鼻をならす。そんな楽観的な考えは持てなかった。軍の連中はきっと、こういう色んな事態を想定してプログラムの準備を行っているはずだ。もし炎が燃え広がったとしても、自分たちの安全は確保しつつ、高みの見物で生徒達が焼け死ぬのを眺めるのだろう。どうせ。

「誰だか知んないけど、何してくれてんだ……」

低く呟いた。これでまたリスクが増えた、と思うと腹が立つ。
今の自分はこいつらを追い払うどころか、追い払われれば憂き目を見る立場だ。今度誰かに襲われれば、自力で逃げ出すこともできない。誰かがいないと……。

そこで直実は思考を固まらせた。ちょっと待て、と。

なに甘えてんの?いざって時に、こいつらがあたしの事をまた助けてくれるって、期待しているのか?まさか、まさか。
確かに、里帆は撃たれそうになった自分を庇ったし、陽平は敵にとどめを刺した。助けられたのは事実だ。だが勘違いしてはいけない。こいつらは味方なんかじゃないんだ。

「わかんない、どうなるんだろ…。こんなの、俺たちじゃ絶対消せないし。とりあえず、外に避難して…」

「そっか…!そうだよ!」

陽平の言葉をさえぎるように。里帆ははずんだ声を上げる。

「ねぇ、殺し合いを止めれるかもよ!みんなで協力して、この火を消すの。そのために集まんの!」

「は?」
「あ?」

「だから、この火事をダシにして殺し合いを中断させるのよ!だって、そう言う理由になるでしょ?」

「ダ、ダシって……」

「『このままじゃ殺し合い云々の前に、焼け死んじゃう。だから手を貸して』ってみんなに言って回るのよ。そうすればさ、やる気になっちゃってる奴だって説得できない?」

里帆は嬉々とした様子で即席の計画を述べ始めた。他のクラスメイトを探し回る。説得してみんなが集まる。共同作業で火を消す。その共同作業を通して、B組の疑心暗鬼が解ける。みんなが殺人を思いとどまり、集団で脱出の計画を立てる……。そんな感じだ。

だが里帆が言葉を並べるごとに、直実も陽平も顔を引きつらせていった。



.

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ