OBR

□終盤戦
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会場の北側を占めるただっ広い畑地は、山間の静けさをより一層際立たせている。畑を囲むのは高く強靭なフェンス。そして木立ちだけだ。
はるか遠くまで続く土の平面には、所々雑草が生え始めていた。それは、この学び舎が政府に収容されてより経過した時間を如実に示している。しかし、そんな事に気がつく生徒は一人もいないだろう。

梶原亮(男子5番)も、今しがた畑の脇を歩いているのに、傍らの雑草に目もくれていない。

「おはよーみんな!!朝です!爽やかな朝と、放送のお時間が来たよ!」

どこかに設置されているスピーカーから、場違いな大声が轟いていた。広い畑のどこに立っていても聞こえそうな音量だ。
亮にとって、そして今現在生き残っているB組にとって4回目となる放送だった。亮はただ無感動な面持ちで、地図とペンを引っ張り出す。

「ではでは、新しく死んだ人の発表です、じゃかじゃん!男子16番・星山拓郎くん、女子1番・秋山奈緒さん、2番・尾方朝子さん、4番・紺野美香さん、14番・堀川やよいさん。以上!あと残り半分まで来たよーみんな!ひと区切りひと区切り!」

亮は名簿の名前を見やりながら、ペンを口に咥える。タク、死んだのか……。クラスでも特に仲の良かった拓郎の名が読み上げられて、胸のどこかが軋むような心地がした。

「続いて禁止エリアだ!7時よりD−12。9時よりG−4。11時よりF−8です。そうそう、今回は禁止エリアに引っかかった奴らがいたからな!みんな気をつけるんだぞー!じゃっ!これからも頑張っていきましょい!」

ぷつ、と音声が断ち切られる音が最後にこだまする。元の静けさに戻った屋外で、告げられた禁止エリアに斜線をいれた。

何が頑張りましょいだクソ野郎。完全に高みで見物をする父屋どもに対する怒りで、亮はそう毒づいた。
だがその怒りも、拓郎に対する哀れみと同じく心のどこか別の場所で燻る程度のものだった。人が死んでいくというこの状況に自分は慣れてきてるのかもしれない。それとも逆に追い詰められて、自分を忘失しているのか。亮には分からなかった。

亮は口からペンを取って、地図と一緒にポケットにねじ戻す。その動作は全て片手だ。もう片方の手はずっとずっと前に、鵜飼陽平(男子3番)に撃たれて動かなくなっていた。今でもズキズキと、何かの呪いのように痛みがひどい。
はじめの内は、陽平に対する怒りでいっぱいだった。見つけ出して殺そうとすら考えた。が、一晩経って朝を迎えた今、心境が変化しきっていた。
怒りよりも、不安がはるかに勝っていたのだ。

自分より劣っている筈のクラスメイトに負かされた事で、亮はそれまでの自信を捨てざるをえなかった。もはや銃を持っていた所で何の励みにもならない(一応、あれから自分の銃を拾ってはいたが)。
とはいえ、もし今目の前に陽平が現れれば、問答無用でブチ殺してやる気概はあった。きっと、そうせずにはいられないだろう。だがこうして一人でいると、疎ましく憎らしく思う気持ちより、得体の知れない人間に対する不安と恐怖が膨らんでいくのだ。そしてそんな人間は、陽平だけとは限らなかった。

亮は自分が過信してる(してた、だ)ほど、実力があったわけじゃない。その上、みんなの実力を知らないでいる。生きて帰るには誰かを殺すしかないのに、それなら誰だったら殺せるのか、わからなかった。

これから先、己の実力や本心を隠した奴に出会っても、亮には普段のクラスメイト像しか知らない。なまじクラスメイトである分、思いもよらない人間に殺されかねないと思った。それが一番、亮を不安にさせていた。
現にB組の半数は死に絶えた。その殆どが、同じクラスメイトに殺されて。

何を考えているのか、わからない。
誰が危険なのか、わからない。
どんな隠し事を持っているのか、わからない。

考えれば考えるほど当前だと思った。クラスメイトだって、他人だ。知らない奴らなのだ。気を許すなんてもっての他。侮るのも無し。

たとえ誰だろうと。









【残り 20人】







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