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□中盤戦
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同じく北東校舎の奥。他の教室より一回り以上広い部屋があった。ドアの上の無機質なプレートには「講義室」と書かれてる。長テーブルがUの字型に並んだ、段々畑のような教室。
「どう?」
高原乃慧(女子7番)はすぐそばの渡辺凪(女子21番)に声をかけると、その手元を一緒に覗きこんだ。凪の支給武器の探知機には、画面の中央に大きな光点があるのみだ。しかしその大きな光点はよく見ると、7つの光がぎゅうぎゅうに重なり合っているのがわかる。
つまり、今共に行動している7人が。
「大丈夫そう・・・だね」
「うん」
凪はうなづく。その前をいく南小夜(女子17番)がそれにならって言った。
「見たかんじも、誰もいないね。ここでちょっと休む?」
「そうだな・・・広いし見晴らしきいて、ちょうど良さげだ」
返事をした矢部樹弘(男子19番)は心配そうに振り返る。怪我をした(怪我だなんて間抜けな響き。実際は銃で撃たれたのだ)藤岡圭太(男子15番)へ「肩、どんな具合だ?」と声をかけた。
「手当てできりゃいいんだがな・・・どうすりゃいんだ?こういう時」
「なるたけ動かさないように安静だな。止血は取り合えずできたし」
そう言う管野優也(男子8番)と石黒隆宏(男子2番)に当の圭太は硬い表情をくずした。
「なんだ、気持ち悪り。いつもは構わずどつくくせによ・・・もう平気だ、こんなの」
そうでないのは誰の目にも明らかだった。乃慧は思わず口を開くが、それに構わず圭太は続けた。
「それより・・・これからどうする、みんな」
全員が黙ってクラスの委員長を見つめ、辺りは一気にしんと静まりかえった。広い講堂ということもあって、ましてこの状況だからこそ、その沈黙はものすごく重い。
乃慧はついさっきの、父屋の放送を嫌でも思い出した。のんきな声で上げられた、かけがえの無い友だちの名前。だが、その二人を手にかけた張本人は、あの間抜けの軍人どもでない。
忘れもしない、あの光景。玄関ホールに降り外を眺めて、いの一番に飛び込んできた赤い光景。あの大人しく、淑やかな園部優紀(女子6番)の変わり果てた姿を、乃慧はしっかり見てしまった。
しかもそれをやったのが、乃慧の直前に出発した双子の片割れだったという。鎌城康祐(男子6番)と鎌城祐斗(男子7番)の間に、優紀は挟まったかたちで出発したのだ。
自分が教室で戦々恐々と震えていた、あの数分の間に「それ」は起こっていた・・・もし出席番号が少しずれていたら。もしあの双子の間にいたのが優紀でなく、乃慧だったら・・・
錯乱しなかったのは、そんな間もなく小夜や樹弘たちに声をかけられ、いつもの調子でそばにいてくれたおかげだ。
「少なくとも二人―優斗と康祐だな―こいつらは人殺し側についたってのは確かだ。この先も誰かが、そうなるのかもしれない」
圭太は小さな声で言う。いつもの、しっかり者の顔。
「けど俺は絶対、何があっても、人殺しになるのは勘弁だ。こんなプログラムには、参加しない・・・みんなは、どうしたい?」
最初に口を開いたのは小夜だった。あたしだって、と声が上がる。
「あたしだって、嫌だよ、こんなの。あんな・・・あんな事する奴らのいいなりにだけは、なりたくない」
「そうだよ」
頷いて続けたのは優也だった。
「こんなもんやってられるかよ。あいつらの思う壺なだけだ。それに万一、鎌城たちと出くわしてもこっちは7人もいるんだから、何とかなるよ」
「何とかならないのは、それでもルールを守らなきゃ死ぬしかない、て所だな」
顔をしかめて呟いたのは、隆宏。自分の首元の首輪に手をやっている。
「これに乗らないってのはつまり、やる気の連中からは逃げるって言うことだろ。今はよくても、ゆくゆくは苦しくなるぞ。2時間おきに動ける範囲が狭まるんだから」
「て、いうかさ・・・逃げる事ないじゃん。だって、こっちはその気は無いんだし、それをうまく説得して、分かってもらえば・・・」
だいいち、誰も望んで人殺しになんかなりたがらないだろう。そう思って乃慧は言ったが、隆宏は首を振った。
「それ厳しいぞ、乃慧ちゃん。もう誰がなんと言おうと、鎌城たちを信用する気はおきないだろ?それに、時間規制だ。24時間誰も死ななきゃ、全員オダブツなんだぞ。その辺をどう説得するんだ?」
「うあ、そっか・・・そんなのもあったな。ったく」
樹弘が悔しそうに吐き捨てる。
「そんなルール作る暇あんなら、もうちょいましな税金の使い道考えろや。バカ政府」
沈黙が降りる。どうしてこのクラスが、こんなプログラムなんかに選ばれたんだろう。仕方ないと分かっていても、そう考えずにはいられなかった。どうあがこうと結局は人殺ししか生き残る術がなく、殺し合いは避けられない。
(なんとかやめさせないと、止まらない。こんなの)
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