OBR

□中盤戦
68ページ/74ページ









「江口はこれからどうするんだ?」

圭太はしゃんとしたいつもの口調でそう聞いてきた。そりゃ、できればお前ら殺すよ、と心中で答えるが、勿論口から出すような真似はしない。

「どうもしない。鎌城がそんな奴だってんなら、これ以上ついてく気も無くなった」
修二は二人を見据えて続ける。
「おまえらはどうなんだ。矢部とかには会ってないのか」

「みんなとは、後で合流することになってたの」
「合流って、どこに」
「ここから少し離れた、中庭側の学習室だ。といってももう、皆はいないかも知れないな」

どうやら他の連中はあと5人もいて、時間と場所を指定して待ち合わせをしているらしかった。出発直後に声をかけ合い、最初から一緒に行動をしていたという。しかし、何故か今は二人きり。

「そもそもなんで、別れたりした」
「俺たち…というか俺は、どうしてもクラス全員に呼びかけたくて。それであいつらとは、一旦別れたんだ」
「呼びかけ?」
「うん…ちょっとでも…ほんとに少しでも、殺し合いが止まればって思って」
「具体的な事なんか、何一つわいちゃいない。現実的でないのは、十分わかっているつもりだ」

修二はその発想にふいを着かれて、「へぇ」と零していた。

「―だけど、絶対に不可能だとしても、やってみもせずに諦めるのは、違うと思うんだ。俺たちは元々殺し合いなんて、望んでないんだから…それは鎌城たちにしたって、当てはまると思う。もし全員じゃなくても、俺たちが大勢で集まれば、何か出来る事があるかもしれない。脱出だってできるかも」

修二は黙って聞き入り何も言わなかった。しかし頭では、なわけないだろ、と呆れ果てていた。
穴だらけの、都合の良すぎる希望だ。こんな話しに飛びつく奴がいるのだろうか。圭太が続ける。

「正直、詭弁だ……けど俺は、そうすることにしたんだ」

くだらない、と思った。

こんな時に詭弁で誰が賛同するのだとか、ルール上殺し合いが止まったら全員死ぬだろとか、いちいちそれを指摘する労力も時間も割きたくなかった。

「呼びかけね。……お前らが決めたんなら、そうすればいいが…もう奴は、とっくに行っちまってると思うぞ」

修二はそう返して、先ほど自分が顔を覗かせていた廊下の角を見やる。
「向こうにいたけど、ここからじゃ完全に見失ったろうな」

さりげない動作でその場から数歩下がると、促すように廊下の向こうを―鎌城の背中があった方角を指差す。圭太は特に考えることなく進み出て、角から廊下の向こうを確認しようとした。傍らの乃慧に話しかける。

「探知機、まだ追えてるか」
「うん…ちょいギリギリ」

圭太に倣ってその横に並びながら、乃慧は小脇に挟んでいた箱の機械を持ち直した。
二人はその小さな画面を覗き込み、こちらの動きに気づかない。修二はそっと背中に手を回す。冷たくも暖かくもない、鎌の柄を握った。

「けど圭太、本当に――!?」

その先は、ヒッと息を呑む悲鳴に変わった。それと似た音を立てて、修二が横に振った鎌が乃慧の横顔へ迫る。
鎌の切っ先は、乃慧の耳元から喉を浅く抉った。ところがすぐに、ガチッという固い感触に止められる。彼女の首輪が鎌の邪魔をしたのだった。

ちっぽけな箱型機械が、ガツンとうるさく床に落ちる。傷を抑えて飛び退った乃慧は思いっきり圭太と衝突した。動揺と恐怖に目を見開きながら、何が起きたかわからないという表情で。修二は高々と上がる悲鳴を覚悟していたが、幸い相手は声すら出せない様子だった。

「乃慧!?大丈夫か!」

代わりに大声を上げる圭太が、乃慧の肩を支える。そして修二の方を振り向いた。その手から伸びる刃物を見つけて、顔を歪ませる。

「それ――、お前…!」

「こっちはもともと、優勝一筋だ。二人とも殺し合いが嫌なら、死ねよ」

言うや否や、修二は再び踏み込んだ。今度は、壁と乃慧に挟まれた位置にいる圭太めがけて。
その懐に向け鎌を振り上げる。圭太はバランスを崩しかけながらも、かわそうと仰け反った。その拍子に学生服の裾から、ナイフの鞘が見て取れた。

修二の狙いはそこだった。凶器を持たないもう一方の手をそこへ伸ばすと、首尾よく抜き取った。

「優、勝…?……最初から…?」
「そういうこと」
「ダメだ、よせ江口!」




.

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ