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□中盤戦
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間違いなく、あれは銃か何かの武器だ。

江口修二(男子4番)はただのブタのぬいぐるみにしか見えないものに、そう結論付けていた。それは床に置かれた際や、ふとした衝撃に「がしゃり」と、重々しげな音をたてていたからだ。

たった一人で移動しているブタの持ち主を見つけたのは、ほんの十分ほど前。大事を取って様子を見ておいて正解だった。初見こそ、しょうも無い武器を引き当てたなとしか思わず、そのまま刺し殺す気でいた。
が、あれの前にのこのこ現れば、やられたのはこっちだったろう。

修二はその人物―鎌城兄弟の片割れの後をつけていた。祐斗(男子7番)か康介(男子6番)かの判別はつかない。
それよりむしろ、単独なのか一緒にいるのかが問題だった。彼を見かけたのはついさっきで、今のところもう片方は見当たらない。しかし双子という点から考えて、いつもう一人がひょっこり現れてもおかしくない。油断はできそうに無かった。

鎌城がいやに重そうにぬいぐるみを抱えているのを見て、修二はそれが大きな銃器であると推定した(なぜブタなのか知らんが)。対して自分の武器は、殺害した野沢頼春(男子13番)から貰った鎌がひとつ。
大人しく立ち去るという道もあるが、それはいつでも出来る。今この状況は、武器を調達するまたとない機会だった。鎌城がこちらに気づかず一人きりでいる限り、隙は十分望めそうだ。
いずれ銃は必要になる。プログラムが開始してよりバンバン響く銃声がそれを物語っていた。

ふいに右後方で、何か動いた。

廊下の角から鎌城の背中を見ていた修二は、すぐさま目を移した。通路を隔てすぐ近くのガラス窓に、ちらちらと動く何かが映っている。
暗闇の中で鏡のようになったその窓は、自分の後ろ一帯の風景を反射しているのだった。そう気がついて、振り返る。

ふたつの顔と、小さく速く振られた掌が見えた。その手が、映っていたものの正体らしい。修二が鎌城を見張っていたのと同じように、身を隠してこちらを伺ってる。
そいつらは修二がこちらに気づいた事を知ると、口元に人差し指を立てた。ほぼ同時に。

言われずとも、声など出さない。むしろ大声を出されると困るのはこちらなので、修二は思わずその動作を返した。二人はやがてこちらへ静かにやってくる。

―仕方がない。ブタの銃は、最悪諦めよう。
武器を得るまたとない機会かもと思うと残念だが、こいつらを無視するわけにもいかない。瞬時にそう切り捨てて、謎の二人組みに集中する事にした。
二人組みは武器を持っていない事を示すように両手を開きながら近づいた。そうしてだんだん顔の判別がつく。

「江口、一人か?」
「えっと、久しぶり」

すぐ傍まで来てヒソヒソとそう言ったのは、藤岡圭太(男子15番)と高原乃慧(女子7番)の二人組みだった。
圭太は手にこそ何も持っていないが、学制服の裾から細い何かの一部がとび出ているのが目に入った。大きさからして、ナイフだ。乃慧は特に何も身につけていないようだが、小脇にしっかりと小型の箱のような機械を挟んでる。

「ああ。そっちこそ、二人だけか」

修二が静かにたずねると、二人はまたほぼ同時に頷いた。
いつも大所帯でいるグループの一員だった。クラスの友好関係に詳しくない修二から見ても、かなり仲の良い印象の一団だ。(他の顔ぶれは矢部樹弘(男子19番)や南小夜(女子17番)あたりだ。確か。)しかし見た所、まだ全員に会えていないようだ。

軍人に撃たれ肩を負傷しているのに、圭太の表情はしっかりしている。一方乃慧は暗闇でも分かるほど蒼白だ。修二よりも、その向こう側にいる人物が気になってしょうがないみたいだった。

「あそこにいるの、鎌城君でしょ?」

乃慧の声は怯えきっていた。それに頷いて「どっちかわからんけどな」と答える。

「江口君、声かけた?ずっと見てたの?」
「様子見してた。ついさっき見かけたはいいが、どうしたもんかと思ってな」
「他の誰かとは、鉢合わせてないんだ」
「おれがみつけてからは誰とも。…どうしたんだ」

二人の顔は険しい。何かあるのかたずねると、圭太が重々しく口を開いた。
なんでもあの双子は、早々このプログラムにのる気になったらしい。躊躇いなく、出発直後の園部優紀(女子6番)を待ち伏せで殺害したという。
修二にしてみればそんなのは不条理でも何でもないが(だって生き残る唯一の手段だ)、圭太と乃慧にとっては許容しがたいようだ。それを見てとった修二はただ黙りこくる。

どうやらこの二人に攻撃性は無さそうだ。ならばあとは、武器次第か。

勿論、油断はできない。彼らの言が口先だけで、裏をかく気でいるのかもしれない。が、そもそも裏をかかれる程に長居する気が無かった。銃持ちなら大人しく離れる。鎌一本で渡り合えるような武器だったなら、やることは一つだ。…いや。二人だから、ふたつだ。




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