OBR

□中盤戦
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何だろう、と暗い中で目を凝らす。傍へいき拾い上げたのは、一つの鍵だった。
ごくありふれた形状のそれを回して眺める。何の鍵だ、正和か亜美の私物だろうか。それにしては、キーホルダーの一つもついていないけど。しばらく考え込んで、ふとこの部屋のドアに鍵穴があった事を思い出した。

並んで横たわる二人を一度だけ振り返ってから、準は部屋の出口へ向かった。部屋を出てドアを閉める。そこにつく丸い鍵穴は、嫌な存在感を湛えていた。
鍵穴にそれを差し込んでみた。

かちり

あっさりとその部屋は閉錠さて、準はまるで自分が何かの犯人になったような気がした。やっちまった。閉めちゃった。みたいな。別に悪いことなどしてないのに、何だこの後味の悪さは。
もう一方のドアを調べると、そこはすでにしまっていて開かない。この部屋は閉めきられていた。たくさんの武器と二つの死体を残して。

準は何故か背筋がすっと寒くなった。
鍵のかかる部屋には大量の武器。その中で絶命した、二人の級友。正和と亜美は果たして、自決したのだろうか。それは準の勝手な想像に過ぎなかった。

―どうしよう、これ。

鍵を閉められるのなら、武器を隠す必要はなかったようだ。この鍵さえなければ、誰もあの武器にはたどりつけない。このままこれはトイレにでも投げ込むか、窓から外へ捨てるかしてしまおう。それがきっと一番だ。

「お前、名取か?」

すっかり暗くなった廊下に、突如声がした。
そこに誰かがいるのを知らなかった準は完全に意表をつかれた。飛び上がって声の方を振り向くと、暗闇にまぎれて二人の影が見える。
並び立つ姿は、学生服とセーラー服。

「うわあぁぁっ!」
思わず叫んで後ろへ飛び退いた。その二人を一瞬、正和と亜美だと思ってしまったのだ。

いきなり大声を上げられた相手二人も、驚いた様子を見せた。学生服の方は「うおっ!?」と肩をすくめてしまう。そしてセーラー服の方は、無言で小脇に抱えたものをこちらに向けてきた。

「おい奈緒やめろって。そんなんじゃ誰だってビビるだろ」
「ビビッてるのはこっちもでしょ。そんな悠長な相手とは限らないよ」

そんなやり取りを聞いて、準はその相手が星山拓郎(男子16番)と秋山奈緒(女子1番)である事を知った。恋仲二人組だ。奈緒の手には小型の弓矢のような武器が掲げられて、先端は依然としてこちらを向てる。準は無意識に両手を肩上まであげて見せた。

「ごめん、びっくりしただけ…もう大丈夫だから」

準がそう言うも、奈緒は武器を下ろさないでこう告げた。
「うん。錯乱してるのかと思ったけど、大丈夫そうで良かった。だけどごめんね。ちょっと君を信用するのは難しいかな」

彼女らしいきっぱりとした口調の返事がくる。これ以上関わる気はない、という意思がありありと伝わってきた。いたって分かりやすいことだ。準には親しい仲の人間がいなかったので、恐らくこれが、クラスのほとんどが自分に対して見せる反応なのだと察せた。
予想はしてたけど、いざそういう反応を目の当たりにすると気が萎えるものだ。準は息を吐きながら奈緒に返事をした。

「いいよ、別に。驚かしてごめん。おれもう行くから、二人とも気をつけてな」

それで隣り合う男女が、顔を見合わせるのが分かった。準は荷物をちゃんと持ってる事を確認して、二人が立ちはだかるのとは反対側へ向かおうとした。

「え、ちょい待てって…お前、一人かよ?」
拓郎は少し慌てたようにそう声をかけてきた。それから、何やら自分の発した言葉に気まずくなったようで、モゴモゴ呟き出す。

「ええと、今のは嫌味とかそういうんじゃないからな?他に仲間がいるのかっていう意味であってだな…別に、お前は女の子いないの?とかって―」
「うっさい、タク。名取くんそれじゃぁね。何してたか知らないけどもう暗いから、道中お気をつけて」

こんな状況でなければ、笑い出していたかもしれなかった。あるいは逆に、「余所でやれや」と怒りが沸いていたかもしれない。

しかしどちらにもならなかった。
何しろ脳裏には、哀れな二人の死体がくっきり焼きついていた。ドア一枚隔て、さらに鍵をかけようが、記憶も気分も誤魔化されはしない。そんな場所に長居で立ち話なんて、ごめんだった。

おおい、と拓郎の声がしたが、準は聞こえないふりをして歩き出した。暗い廊下を、ほとんど逃げるように。
拾った武器をカバンから取り出すと、いつでも出せるようにベルトへねじ込んだ。





【残り 30人】






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