OBR

□中盤戦
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どんなに見つめても亜美は死体のままだった。その苦悶の表情が、いたずらに瞼に焼き付いていく。それでも目が離せないでいる内に頭が麻痺したようになって、準は自分が怖がっているのか、悲しんでいるのか、それとも何も感じていないのか分からなくなってしまった。

しばらくして、そんな感覚のまま学生服の方を確認しにいく。

その男子は完全に突っ伏して顔が見えない。彼の傍にもまた別の拳銃が落ちていた。静かに肩口を押し上げてやると、豊永正和(男子11番)の半分白目をむいた顔が覗く。自分の血に浸かって顔面はペイントされ、動いた拍子に額の上からどろりと液体が滴り落ちるのが見えた。穴が開いていたのだ。その凄惨な有様に思わず、手を放して後ずさる。

正和とは、言葉を交わした記憶が二、三度あるかないかだった。けれど、普段の教室で亜美と楽しげに話している様子を目にしたことがあった。つき合ってるのかな、と思ったくらいだ。

ふと、準の頭に「心中」という二文字が浮かんだ。
殺し合いという過酷な現実に耐えられなかったのだろうか。そうだとしたら、自分たちから死を選んだとしてもおかしくない。ただの想像だけど。

血溜まりから遠ざかり、やっと死体から目をそらす。部屋の様子を探ろうとして、その目はすぐにとある一点で止まった。この部屋に一つきり、真ん中に置かれた変な机。その上に様々な刃物や拳銃が並べられているのを見つけたのだ。
まじまじとその物騒な展示品を眺め回した。どうしてこんな所に、こんなにいっぱい武器があるんだ?寮で父屋から受けた説明を思い出す。支給される武器が一人に一つという話しは、嘘だったのだろうか。

他に何かないかと見回すも、特にありはしなかった。たくさんの武器と二人の亡骸をいれた部屋は沈黙している。一刻も早く立ち去りたいが準は動かなかった。
ここまで護身用になるものが揃っているのだから、いくつか拝借していこうと考えた。勿論、進んで誰かを殺そうなんて思わないが、丸腰のままというのはこの上なく不安だった。出会うなり能登谷紫苑(女子11番)に殺されそうになった時の恐怖がよみがえる。またあんな目にあったとしても、とり合えず追い払う術だけは持っておきたかった。

でも下手をすれば、本当に人殺しになってしまう。

撃たれて負傷した片腕は、まだしつこく痛んでいた。これから先、こんな物を誰かに向けて脅すような真似をしていくのだろうか。準はひどく複雑な気分になった。まぁその前に、こんな物が使いこなせるのかという問題があるのだけども。
ズキズキ疼かない方の腕で手近の銃とナイフを取る。どれが良いのかわからないので銃は適当に、刃物は柄の長い大きめの物を選んだ。それでも卓上には、これ見よがしに並ぶ武器が多く残る。

もしプログラムに乗り気の奴がこれを見つけてしまったらまずいよな。準は首を捻る。
かといって、これを全部持ち歩く気にはなれない。これを全て携帯すれば、たとえどんな奴だって人間凶器と化すのは明らかだ。人殺しはごめんだ。
となると、隠してしまうのが一番だろう。

教室を見渡して、壁際にある空っぽの本棚が目についた。殺風景な部屋にはそれより他に良さそうな所はない。それにしてもこれらの武器はどっから出てきたのだろうか。正和と亜美がクラスの連中から奪い集めて、並べたのか?そう考えるよりは、元々ここにあったものを二人が見つけた、という方が自然だ。

準は己の分にした武器をカバンにしまうと、残りの凶器をガチャガチャとかき集めた。怪我をしないように気をつけてそれらを本棚の方へ運ぶ。本棚の下段は引戸の物入れになっていたので、そこに銃と刃物を押し込んだ。引戸を開けられればそれまでだけど、机の上よりはマシだろう。

これでもう、ここにい続ける理由はなくなった。最後に準は二人の元に戻り、死体をあお向けに転がした。正和と亜美の腕は鉄のように冷たく、がちがちに固まっている。それをできるだけ動かして身体の前にあわせた。生きていないから慰めにもならないのだろうが、せめてこうしておこうと思った。しかし怖いので、顔だけは見ないようにせずにはいられなかったが。
もたつきつつもやっとそれを終えた準は、立ち上がる。

すると、その拍子に床のどこかが一瞬光った気がした。




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