OBR

□中盤戦
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そういえば修学旅行を迎えた朝から、ずっと微妙な天気だった。すっきりしない曇り空のもと、自分たちは出発した。到着したのは思ってもいない最悪な場所で、おまけに天気までもが最悪になってた。
煙のようにひどい土砂降りが収まると陽射しが覗く間もあったが、晴れることはなかった。太陽は雲の向こうに潜んで、そのまま落ちようとしている。

会場のほとんどがただっ拾い校舎なので、建物の中にいる限り変な天気を気にする必要はない。でも建物の中の方が明かりがないので、外より真っ暗になるかもしれない。それがプログラム参加者にとって吉となるのか凶となるのか、名取準(男子12番)には判断できなかった。

準は今、北西校舎2階の廊下を歩いていた。目についた部屋に入っては出るを繰り返していたが、片っ端からそうしていたわけではなかった。たびたび怖気ずいて通り過ぎたり、逆に隠れて休憩をとったりした。

半時ほど前に銃声が聞こえたが、どうやら階が違うみたいだった。どこの誰だか知らないがそんな人間に暗がりで見つかったらひとたまりもない。やはり夜は動かずどこかでじっとしている方がいいだろうか。
先程とある部屋に入った際、試しに照明スイッチを押してみると、天上の蛍光灯は無反応だった。軍人の放送の時にスピーカーが動いていたので電気が通っているのだと思っていたが、どうも明かりは望めないようだ。そんな中で人探しをするくらいなら、朝を待つべきかもしれない。あの子が無傷でいることを願いながら。

二度目の放送で横森真紀(女子20番)の名前は呼ばれなかった。でもそれは死んではいないと言うだけで、無事でいるとは限らない。確実なのは5人の同級生がもう帰ってこないということと、彼らを殺した人間がいるということのみ。

階段を横目に、重い足を引きずって歩く。辺りは仄暗くてかなり不気味だった。なんたって暮れ時の学校だし、これは夜が長く感じそうだ。そんな風に考えながら、目についたドアの前で何となく立ち止まった。
朝までじっとしてるかはともかく、暗い間はなるべく動かずにいよう。そういう気持ちを固めはじめた準は、その部屋に歩み寄った。鍵穴がついている。もし閉錠可能な部屋だったら、ここで休めるかも。
少し迷ってから、そーっとドアを開けてみる。

その途端、準は凍り付いて息を止めた。横たわる黒い人影が、真っ先に目に飛び込んできたのだった。

部屋はがらんどうで、真ん中に簡素な机がぽつんと置いてあった。それだけだったので、薄暗い中でも誰かが倒れているのがしっかり見て取れる。しかも二人。
心臓だけが、早くうるさく動いていた。人影の一方は学生服。そしてもう一方は、セーラー服姿だった。

声をかけようとしたが、喉がこわばってできなかった。準は口をつぐんだまま、人影に数歩だけ近づいた。それだけで、むっと鉄くさい嫌な臭いが鼻をつく。二体の人影が死体であると気づくのに、時間はかからなかった。

恐怖に動悸が強まり、引き返そうと背を向けた。だが同時に、小さな迷いが頭の隅に生まれる。部屋は無人だ。せめてこの二人が誰なのか、確認しなければいけないのでは。
そう思ったのは、一瞬捉えた人影の容姿が、先ほどの放送で呼ばれた五人と明らかに会わないと感じられたからだった。和田礼司と茂松司のふたりは、もっと背が高かったはずだし、二宮咲枝の小さな体格にも、月本敦子や雪平花の髪型とも雰囲気が異なっている。

散々迷った挙句、準は腰が引けながらも振り返った。死体の傍らにコロリと転がる銃が目に入る。その同じ床に、巨大な黒いしみが広がっているのを見つけた。暗い色は濡れてぬらぬらと反射している。鼻を刺す臭いの正体だと知って、目を凝らすのをやめる。
手前の方に倒れているのはセーラー服。つまり女子だった。その横たわる影と、横森真紀の姿とを思い比べる。

―たぶん、違う。でも体型は、同じくらいか…?

怖気づきそうになるのを叱咤して部屋に入り、うつぶせに横たわる女子を覗き込む。床から半分見て取れる顔は橋本亜美(女子13番)のものだった。
屈託のない気性と愛嬌のある言動で男子にファンが多い子だ。美少女の分類に入る亜美の表情にいま、あの笑顔を見つけることはできない。目はどんよりと開いたまま。口元は苦渋にゆがめられて、べっとりと何かで汚れている。



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