OBR

□中盤戦
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支給品の腕時計を確かめた渡辺凪(女子21番)は、思わず針の位置を二度見した。六時前。もうそんなに時間が経っていたのだ。

時折思い出したように鳴り響いていた銃の音がやみ、もう数時間にわたって物騒な音は絶えていた。それが良い兆候でも何でもないのはよく判っていたが、こうして合流できた友人みんなと無事に過ごせている事にホッとする。でもそれも、いつまで続いてくれるのだろう。

「おぉい、凪、凪。スイキンチカモクドッテンメイカイ、だよなぁ?」

傍で他の仲間たちと喋りこんでいた矢部樹弘(男子19番)が、ふいに振り返るといきなりそんな事を訊いてきた。凪は思わず瞬きをした。

「へ…?」

「違う違う。「メイカイ」じゃなくってドッテン「カイメイ」だろー。何だよ冥界って。こえぇよ」

「だって冥王星の方が近いんだろ?」

「海王星でしょ」

「うそ?スイキンチカモクドッテン…うーん、やっぱりメイカイじゃない?」

「だろお?」

「だーからー、違うって」

スイキンスイキン、と口やかましく復唱しているのは樹弘と菅野優也(男子8番)、南小夜(女子17番)、高原乃慧(女子7番)だった。一体何を話しているんだろう、この人たち。

「何で太陽系の話でもり上がってんの」

笑いながらボソッとつっこんだのは、委員長の藤岡圭太(男子15番)。凪が一拍子遅れて抱いた疑問を、意図せず代わりに吐き出してくれた。腕を負傷したせいかいつもの覇気は薄いけれど、それでもしゃんとしている。

「気晴らしだろ」

短く返答した石黒隆宏(男子2番)も、口調とは裏腹に表情が少し緩んでいるようだった。その横には優也に無理やり渡されたくまのぬいぐるみ(驚く事にそれが支給武器として入っていたのだ)がちょこんと座っている。反対に隆宏の支給武器である短機関銃は優也の肩に掛けられていた。一人だけが担いでいるのはえらいので、交代で廻していく事にしたのだった。

こんな時に何をのん気な事をやってるんだこの4人は、と生真面目な性質の自分はどうしても思ってしまう。けれどみんなも、ちっとも平気な気分でいるわけではないのだ。それがわかっているから、こうして明るく振舞っている様子にどこか助けられている自分がいた。凪は微かに口元をほころばせつつも、探知機の画面をじっと覗き込んだ。探知機には光点が映るのみ。果たしてこれは壁の向こうも透過して反応をしてくれるのか、正直不安だった。

校舎の廊下を移動している際、遠くを横切っていく光点を見つけた時が一度だけあった(その際は傍の一室に引っ込んで様子を見たので、誰だったのか確認できなかった)。凪が注意して探知機を見た限りでは、距離によっては部屋の壁越しでも探知機は反応していた。けれどもほとんど一瞬の間だったので、たまたまその時だけだった可能性も十分ある。なので、正確なところが判らない。

しっかり見てなきゃ。異変があったら、いち早く知らせれるように。
何かがあってからじゃ遅い。こんな時間が少しでも長くあればいいけれど、多分、そうはいかないだろうから。

「な―ぎ、さっきからそればっか覗いちゃって。ちょっと休憩したら?」

小夜はそう言いながらトテトテとやってきて、凪の隣に座った。
それに頷いて手を差し出したのは圭太だった。

「交代。みんなで決めたろ、役割りは分担してかないと」

「ってことで、はい。コレは凪さんにパスな」
ちょっと嬉しそうに隆宏は隣りのぬいぐるみの頭をわし掴むと、それを凪の膝の上にトンと置く。

「あーよかった。激しくいらねー、こんな優也MARKU」

「おい、変な名前つけんな」

せいせいした風な隆宏に、思わずと言った感じで優也が抗議の声を上げた。隆宏はぬいぐるみと入れ代わりに凪から取り上げた探知機を圭太へ渡す。その横から乃慧が凪に笑いかけて言った。

「ちょっとでも、和んでさ。一息つきなよ」

「ありがと」

恐らく軍人がふざけ半分で入れたのだろうから、とても和めたものじゃないのだけど。でもみんなの心遣いはとても嬉しかった。

「どうだそれ。よく見える?」

「ああ・・・一ヶ所にいると、何人なのか見づらいな」

圭太は片方の手と膝で立て掛けた探知機を、隆宏と一緒に覗きこんだ。手持ち無沙汰になった凪は仕方がないので、ぬいぐるみを持ち上げた。優也MARKUはつぶらな目で見つめ返してくる。でも、ただそれだけだ。

「凪、くまさん似合うねー」

「飽きちゃった。もういらない」

「えっ、ちょっと。ゴミみたいに捨てるなって」

「ゴミでしょう」

「えっ・・・」

「また出たな・・・凪の悪気のない毒・・・」





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