OBR

□中盤戦
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「毒入りとかだったらどうすんだ。これ一応武器だろ」

手からもぎ取った包みのメモを確認する。「厳選素材の絶品おむすび 梅・焼鮭」とだけあり、毒入りという文字は無い。しかし信用できなかった。

「こんなの…武器じゃない」

恵はぼそりと呟きながら、食べかけのおにぎりを取り戻そうとした。どうしても食べきるつもりなのか、頑なに手を伸ばす。何がそうさせるのか、見当もつかない。

「私は、私は千夏とは違う。そんな事しない…武器なんか無い。こんなの、こんなの、食べてやる」

気が狂ってしまったのだろうか。空の方も途方に暮れて泣きたくなった。怖くて、回れ右したい気分なのに、どういうわけか全く逆の行動を取ってしまう。
頼むから落ち着いてくれ。そうじゃなきゃ、こっちまでおかしくなりそうだ。思わず空は怒鳴っていた。

「しゃきっとしろ!」

怒鳴り声に身を強張らせた恵の腕を掴み、膝立ちしていたのを再び座らせる。恵は縮こまって、相変わらず震えている。それとは別の異変がないかじっと見守るが、何事も起こる気配はなかった。
それでも空は待った。数秒が過ぎ、数分が過ぎる。

「大丈夫か?」

異変らしい異変が起こらない事を確認して、やっと声をかけた。うん、と小さな返事を得て、やっと恵から視線をそらす。

「何も食うこと無いだろうに…食わなくったってわかってる」

今現在の彼女は、おにぎりを食べるだけの非力な女子でしかない。恵も、そして自分も、千夏のように行かないのは分かりきっていた。

だから踏みとどまれる。踏みとどまってやる。おれだって、あんな風には、なりたくない。

ふと、恵が遠慮がちに手を差し出しているのに気がついた。
一瞬よく分からなかったが、他に思いつかなかったので、空は持っていたおにぎりを包みごと返す。恵はさっきよりはずっと落ち着いた様子で、その包みをそっと膝においた。大きなおにぎりだ。しかし、ふっくらした白米の一粒一粒を見ても、食欲どころか吐き気がこみ上げるだけだった。

「ありがとう」

じっと膝の上を見ながら、恵はくり返しそう言った。もう食べようとはしないようだった。何も食べることなかったろうに、と空は再びそう思った。
食べなくったってわかる。十五年間生きてた中で、最低な味がするに違いない。




【残り 33人】












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