ポケモン
□流れ星のない街
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飛び入りゲストにびっくりしたが、リィエンは改めてヒトカゲに向き直る。すっかりかけそびれてた言葉を口にした。
「無事でよかったよ、相棒」
小さな明かりは弾むように周りを回ると、リィエンの肩に飛び乗った。笑ってそれを見ながらふと思い立つ。ねぐらを変えるように言うつもりだったが、よく考えれば、そこまですること無いな。
「お前、ケーサツに見られた?」
ヒトカゲは、どこか得意そうに首を振る。
「悪ぃ、おれはばっちり見られた」
白状すると、しっぽで軽く頭を小突かれた。あちっ。
「さっきも言ったけど、警察がここら一帯パトロールしだすかもしれない。しょっちゅう顔出してるのがバレたらまずいから、おれはしばらくここに来んのはよす。明日からは、どっか別の場所で落ち合おう」
面倒くさいが、ほとぼりが冷めるまでの辛抱だ。不満をぶつけるでもなく、コクコクと頷いてみせるヒトカゲ。暗闇の中ですら、後光がさして見える。
リィエンは頭の中にある街の地図を引っ張り出すが、中々良い場所が思い浮かばない。あの路地の一帯ならそれこそ庭のようなものだが、それ以外の所では遊ばないので、よく知らん。と言っても、ここで決めない訳にはいかない。
さっと思いついたのは、ここから中心街を挟んだ反対側。ほとんど街外れの区域だった。自分が知っている人目の付かないであろう場所では、ここがベストだと思った。
ヒトカゲに提案すると、かう?と首を傾げる。いまいち判らないようだ。
リィエンはヒトカゲを床に降ろすと、しっぽの明かりを頼りに学校カバンの中を探る。何とか紙とペンを取り出し、簡単な地図を描いた。察したヒトカゲは大人しく照明を受け持ちながら、興味津々に地図をじっと眺めてる。
出来上がったのは、不安な地図。何しろこの一帯は通りがかるくらいで、あまり足を踏み入れる事がない。目印になるような物も知らない。「ハイ、ここな」と相棒に手渡してやると、ヒトカゲは両手で持ち上げてしげしげ。よくわからんが、何かを貰って喜んでる。そんな感じだった。
「会えるかねぇ」
思わず呟くと、ヒトカゲは瞬きをして、くぅくぅくぅ、とのんびり鳴いた。「どうにでもなるだろ」といったところだろうか。のんき者だ。下手をすれば、数日がかりのかくれんぼになるかもしれないっていうのに。・・・まぁ、それもちょっと面白そうではある。
明日の学校は、午後すっぽかそう。取り合えずそれは決定。のんきな相棒のために、いつもより沢山、オレンの実でも持って行ってやろう。
「じゃ、また明日な」
* * *
明かりの消えた暗い路地を、こそこそ移動する。ここでまた警察と遭遇しては目も当てられない。(とはいえあそこまで大騒ぎしたのは、ジュプトルと変な力のせいだ。あのwパンチは、むしろ不可抗力ってやつだ・・・多分)
街の明るい方へと向かいながら、リィエンはまたもや心配になってきた。この数年間、ヒトカゲの顔を拝まなかった日は無かったので、会えないかもしれないとなると、もはや無条件に寂しかった。
でもそれは、リィエンにとって当然だった。
思えばそれくらい、リィエンとヒトカゲはずっと一緒にいたのだ。
初めてヒトカゲと会った時、まだ7,8歳だったリィエンは、その不思議な生き物に夢中になった。そいつは頭がよく、リィエンの言葉をすんなりと理解していた。
そして、たくましかった。庭に住み着いていた当初、何度母親が追い払っても、めげずにやって来た。「駆除業者」という名の殺戮者やって来ても決まって姿を消し、去った後にキチンと戻ってきた。
母とヒトカゲのやり取りを父は「ポケモンバトル」と笑って相手にしなかったし、リィエンは実は背後でヒトカゲに加勢してた。今にして思えば、母は随分頭を抱えたことだろう。でも必死なのは、こちらも同じだった。
「そんなに言うのなら、あのオレンの木を取払ってしまえよ」
父親の提案に、母親とリィエンは「だめ!」と即答した。
「あのオレンの木だけはダメ。どれだけ苦労して、あそこまで育てたと思ってるの?」
「そんな事したら、ヒトカゲ来なくなるじゃん!」
「来なくっていいの!ポケモンが住み着く庭だなんて。早いところ駆除しなくちゃ」
母親の言葉に、今度は父親とリィエンが「だめ!」と即答。
「そんな理由で、生き物を殺すんじゃないよ、母さん」
「そんな事したら、絶対ゆるさない!」
「ヒトカゲが何したってんだよ?あいつ頭良いし、家で飼っちゃおうよ。いいだろ?」
それには父と母が「だめ!」と即答した。
「勝手に住み着く分にはな。でも飼うとなるとそうも行かんぞ、リィエン」
「そうよ、絶対いけません!ポケモンを飼うだなんて、恐ろしい事よ」
そんな泥沼家族会議が続き、とうとうリィエンは決意して、ヒトカゲに告げた。
「ヒトカゲ、頼む。住むとこ変えてくれないか。このままじゃお前どうにも、殺されるか、路頭に迷うしかなくなるみたいなんだ」
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