ポケモン
□プロローグ
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男は空を見上げていた。
石造りの混然とした街のなかに、男は立ち尽くしている。
足元に控えた一匹のポケモンと一緒に、ほとんど呆然と眺めていた。
「あれは・・・日のあかりか」
空は薄闇に染まり、頂上付近には金属のような鋭い光の星が二粒。そして、同じように光る半月が街を見下ろしていた。
しかしそれより下の地平付近の空に、まだ淡く色づいている箇所があるのだった。ほとんど葡萄色に広がっている夜空に、その方角だけが青、緑、黄色をおびている。
「見ろよジュプトル。ここには太陽があるんだ・・・」
呼ばれたジュプトルは、ぐぅ、と軽くうなって男を見上げる。しばらく空と彼とを交互に見やるが、男の方はじっとその太陽から目が離せないようだった。
何十分とたったろうか。その日の光は、一向に沈もうとも、昇ろうともしない。相変わらずの淡い色。
それだけでなく、頭の上の星二粒も、その向こうの半月もさっきから同じ位置で動かなかった。永遠に張り付いたまま、絵か写真のように。
その時、何処からともなく低い鐘の音が響きわたった。
一人と一匹は驚いたように辺りを見回し、やがてその出処と思わしき一点を、すんなり見つける。
大きな塔の上からだった。男とジュプトルを取り巻くこの街の中で、おそらく一番高い建物だろう。
ゆっくりと、くり返し鳴らされる鐘の音にかぶさるように、ジュプトルが低く声を上げた。別に、鐘の音につられたわけではないらしい。中々動こうとしない男に焦れて話しかけたようだった。
「悪い悪い。行くか」
男はそんなジュプトルに小さく笑いかけて言った。
「どうやらここじゃ、時間は待ってくれないみたいだからな」