ポケモン

□13?
1ページ/5ページ








「それでもワタクシと同じハルモニアの名を持つ人間なのか。ふがいない息子め」


退屈にまどろんでいたぼくは、彼のそんな言葉を聞いてシャキッと目を開けた。

冷たくて、怒りのこもった声色。いつもの取り繕った、おためごかしの話し方じゃない。
ぼくは期待を胸に、うきうきと首をもたげた。

彼がそんな話し方をするのは、決まって誰かを痛めつけようとしてる時だから。


「伝説のポケモンを従えたもの同士が信念を懸けて闘い自分が本物の英雄なのか確かめたい、などとのたまったあげく、ただのトレーナーに敗れるとは…愚かにもほどがある!」


近頃の彼ときたら、ひどいもんだ。
「けいかく」?というのに夢中になって浮かれっぱなし。ぼくのことなんか、すっかりどうでもいいみたい。

まぁ、彼はずっと前からそんな調子の奴だけれどね。


「詰まる所ポケモンと育った歪で不完全な人間か………。ですが、ワタクシの目的は何も変わらない!揺るがない!」


おかげでぼくは、遊ばせてもらえないどころか、ボールから出しても貰えない。
御大層な「けいかく」は上手くいってるみたいで、ぼくを使う機会がないんだって。

でも今日は、今日こそは、出番なんだよね?


「ワタクシが世界を完全に支配するため!何も知らない人間の心を操るため!Nにはプラズマ団の王様でいてもらいます。だがそのために、事実を知るアナタ………邪魔なものは、排除しましょう」


ほら、やっぱり。
結局こうやって、いつも黙らせてきたもんね。

彼はーーニンゲンはバカバカしい知らんぷりを決め込んでいるけど、ぼくは知ってるよ。
ポケモンにーー暴力に敵うものなんて、この世にひとつもないんだって。


……えっ、お前ダレだって?

はじめまして。ぼくはサザンドラっていうんだ。




[ヒュドラ]





はやく出たいなぁ。出番、まだかな。

そんな期待を込めて待つぼくを他所に、ニンゲンたちはまだ何かヤイヤイと喋っていた。なんだよう、はやくしてよ。

「支配だって?プラズマ団の目的は、ポケモンを解放することじゃ…」
「あれはプラズマ団をつくり上げる為の方便。ポケモンなんて便利なモノを解き放って何になるというのです?」
「こんの……とうとう言ったわね!」
「確かにポケモンを操ることで人間の可能性は広がる…それは認めましょう。だからこそ!ワタクシだけがポケモンを使えればいいのです」
「きさま、そんな下らぬ考えで…!」

ぶーぶー言われてる。
そりゃあ、そうだよね。ホントどうしようもない奴だよ、彼は。ポケモンには心なんか無いって、本気で思い込んでるんだもの。
彼と同じニンゲンにまであんなに怒られてるのに、ちっとも気にしてないや。

「さて、神と呼ばれようが所詮はポケモン。そいつが認めたところで、トウコ!アナタなど恐るるに足らん。さぁ、かかって来なさい!」

ーワタクシはアナタの絶望する瞬間の顔が見たいのだ。

彼の常套句だ。ぼくは彼の言う「絶望する瞬間」にしょっちゅう立ち会っているので、もう空でも読めた。

初めてそのセリフを聞いたのは、もうずっと昔。まだ進化していない頃で、ぼくには目玉が無かった。



その頃は、彼が嫌いだった。ポケモンを物扱いする、つまらんヤツだと思ってた。
無力でちっぽけなニンゲンの中でも、更にちっぽけなヤツ。いつか、頭からバリバリ食べてやる。そんな風にしか思っていなかった。

力と目玉を得たぼくが初めて目にしたのは、彼の顔だ。

それは、思ってたのと違う表情だった。
自分を強者と信じて疑わない、バカな笑みを浮かべてるんだろう。そうだとばかり思っていたぼくの想像は、ハズレだった。

その顔が忘れられなくて、ぼくは彼とずっと一緒にいるんだ。







.

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ