ポケモン

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12.大散らかし



レシラムの青い瞳が見つめる中、トウコはおさめたばかりのボールからゼクロムを放った。
白陽と黒陰。相対した二頭は咆哮を上げ、異なる瞳の色で睨み合う。静かな闘志とは他に、数百年を飛び越えて再会した両者が何を想うのかは、彼らにしかわからない。

「ゼクロム、これ…!」

その一方で、トウコはゼクロムにある物を差し出した。
いつか役に立つかもしれない。そう言われて、何となく取っておいたそれ。

ゼクロムは先ほどと変わらぬ鋭い目つきでトウコを見、巨大な尾を傍へ寄せた。ここで良いのか、と思いつつも、トウコは尾の隙間―青白い雷光が宿る内部にそれを落とし込んだ。
引き締まった空気を突き破って、Nの声が響く。

「レシラム、リフレクターだ」

「ゼクロム、りゅうのいぶき!」

レシラムの周囲に、炎が溢れ出る。炎は燃え上がった傍から輝く障壁となって立ち塞がったが、ゼクロムの放ったりゅうのいぶきはそれを貫通した。攻撃を受けレシラムは僅かによろめく。が、闘志と威厳を宿した表情には些かの緩みも見せない。

リフレクターが防ぐのは物理型のわざで、特殊型に当たるりゅうのいぶきへの効果はない。けれども、切り札であるクロスサンダーは、大きく威力を削がれてしまう事になる。そこが、Nの狙いだろう。

「クロスフレイム」

聞きなれぬ技名が上がり、レシラムの白い体躯から身も竦むほどの熱気がぶわりと放出される。タービン状の尾がひときわ赤く、強く燃え上がったかと思うと、周囲にほとばしる火炎が一か所に集う。

「りゅ、りゅうのいぶき…!」

トウコは相手のわざの気迫に飲まれそうになったが、かろうじて指示を出す。対するゼクロムは落ち着き払った面持ちで、紫煙のブレスを放った。

レシラムの頭上に上がった炎塊はゼクロムではなく、ゼクロムが放ったりゅうのいぶきへと撃ち落される。炎にのまれ造作もなく打ち消された息吹は、当然レシラムに届かない。
とんでもない威力を目の当たりにしたトウコは、今のわざがゼクロムのクロスサンダーに匹敵するモノなのだと確信する。炎と雷でイッシュを滅ぼしたという伝説にある通りの、甚大な力だ。

これに対抗するには、クロスサンダーしかない。けれども、

「リフレクターが……ッ…切れるまで、なんとかしのごう!ゼクロム」

「ボクの視えた未来に今が届くまであと少しだ、レシラム。じんつうりき」

いまだ辺りに躍る炎の残留が、レシラムの見えざる力によって宙を舞う。生き物のようにとぐろを巻いた炎の束が、四方からゼクロムを目指す。

「きりさく!」
その炎を、爪と硬い翼が勢いよく打ち払う。鋭い斬撃がゼクロムの周りに入り乱れ、じんつうりきの力は火の粉と一緒に消え去った。
お返しとばかりにすかさず指示したりゅうのいぶきは、再び繰り出されたじんつうりきにかき消される。

「はかいこうせんだ」

「まずい…!しねんのずつきで削って!」

凶悪な赤黒い光が、レシラムの開かれた口から生まれて肥大する。それを前にしても動じることなく、目を瞑って集中したゼクロムの額に異なる淡い光が宿った。
レシラムのはかいこうせんが放たれる直前、不可視の衝撃が赤黒いエネルギーを弾いた。
しかし、禍々しくも純粋な破壊の力は止まらない。
発射された光線は、わざを出し終えたゼクロムに当たる。短く、けれども抑え込めなかった苦痛の咆哮が上がった。

「ゼクロム、」

思わず名を呼ぶ声に、咆哮が止まる。伺うようにゼクロムの赤い目を覗き込むと、ほんの少しだけ見つめ返される。だがすぐに、是非もない、とでも言いたげに視線を断ち切られた。堂々と見据える先は、目の前の対戦相手。そのレシラムを覆っていたリフレクターが今、ついに消え去った。










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