ポケモン

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11.掌の遠雷


イッシュリーグに突然現れた、時代錯誤のお城。
駆け付けたチェレンや、ジムリーダーたちに見送られて、城の奥へ奥へと足を運んだトウコは、玉座のある大広間にたどり着いた。
荘厳な様を誇るプラズマ団の城はしかし、道すがら出くわした団員達によれば、ポケモンをこき使って造られたという。そんな玉座へ着く王様の心中は、いかほどか。

トウコはそれをもう知っていた。なので、表情の見えない彼の顔を見上げるしかなかった。

リュウラセンの塔でトウコはNに「それなら」と言った。
対して彼は「それでも」と返した。それが、Nの出した答えなのだ。


「キミにできることは2つ」


失望を滲ませる声色で、Nは冷たく言い放つ。

「理想を求めるためボクに挑み玉砕するか。それともここを立ち去りポケモンが人から解き放たれた新しい世界を見守るか」

理想だろうと、何だろうと、それを掲げて目の前の男を止めれるなら、とうにやっている。が、トウコを打ちのめしているのは、理想でも真実でもない。

「おいで、レシラム」

力、だった。
残酷なほど強大な力がそこにあった。石造りの壁をたやすく破り、若い王のもとへ現れたレシラムは、汚れ一つない純白の巨体を重々しく地につける。遠く隔てた距離にいるはずのトウコの周囲に、恐ろしいほどの熱風が一瞬で吹き付けた。

勝ち目のない戦い。

それを察するには余る、伝説のドラゴンポケモンだ。
あんまりじゃないか。「ちょっと待った」をかけてくれる者もおらず、そこにあるよう求められて座っている虚しい王様なのに。
そんなものにも勝てず、それに従いみんなと別れる道しかないだなんて。

「私たちは、ただ……一緒に、いたいだけだよ…!」

引くわけにはいかない。黙って受け入れるなんて、断じてしたくない。それなのに相手は、敵いようのない強さ。
ポケモンに怯えて、目を背けて、遠ざけるばかりだった自分が今、やっと変われるところなのに。変わることが、できるのに。

―そんなことを言っていれば、ポケモンは不幸なままではないか!

―そんなものは共存ではなく、依存と呼ぶのですよ


「あんた達は、正しいかもしれないけど…」


―モンスターボールといえど、気持ちまで縛ることなどできぬ

―君のポケモン、君のために頑張ってるんだろ?


「私たちだって、間違ってなんかない…!」


恐ろしい力。敵わない敵。だが、ここへ来たのは、それを再認識してみんなとの未来を諦めるためじゃない。
勝ちに来たのだ。たとえNの言う新しい世界でしか、幸せになれないポケモンがいるのだとしても。彼の夢を砕くことになろうと、止めたいと思ったからだ。
バイバニラが落とす氷の涙なんて、もう見たくないから。
ワルビアルの夢追う姿に、笑われたくないから。
ミルホッグが、着いてきてくれたから。
ダイケンキに出会って、すべてが始まったから。

人とポケモンの出会いが不幸しか生まない、なんて信じたくない。

空の天気と一緒だ。いくら雨が降り続こうと、必ずいつか太陽が顔を出す。恐ろしいとばかり思っていたポケモンを、好きになることだってできる。それと同じように…
不幸の次には、ひょっとしたら、幸福が訪れるかもしれない。

この世界は、人とポケモンが寄り添える世界だ。寄り添う限り、ポケモンも、人も、自分をひっくり返すことができる世界だ。
間違っているものか、絶対に。敵わないのなら、せめて全力で邪魔をしてやる。そう口に出してやろうとした、その時だった。鞄のベルトが突然、ぎゅうっと肩に食い込んだ。

「な、何―!?わぁっ」

驚いて体をひねると、鞄がひとりでに浮かび上がっているのが見えた。かと思えば、はち切れたかのようにフタが開き、黒い小さな塊が中から飛び出す。それにつられて他の道具がバラバラとこぼれ落ち、トウコの上に降り注いだ。

キズぐすりにきのみ、透明な石コロなんかと一緒に転げ落ちた4つのモンスターボールを慌てて腕に拾いこむと、トウコはそれを見上げた。

「キミのダークストーンが…」

宙に浮かぶ黒い石は、シッポウの博物館で預かった物だ。そう思い至った時には、禍々しいオーラがその周りを漂い始めていた。

「いや、ゼクロムが…!」

黒い色だけがそのままに、両手に収まる大きさだった丸い石が巨大な生き物の形へと変容していく。










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