ポケモン

□BW番外
11ページ/18ページ





1番道路でのんべだらりと暮らしていたミネズミがその噂を耳にしたのは、陽光の温もりが日に日に増していく冬の終わりの事だ。

「北にあるヤグルマの森には、どんなポケモンも進化させてくれるスペシャルな石があるらしい」

世にある進化の石のことは知っている。ある特定のポケモンを進化させる不思議な石で、ミネズミというポケモンはその「ある特定の」に属さない。つまり、なんの関係もない石ころのことである。

しかしヤグルマのスペシャルな石は、どういうわけか、石の恩恵を受けないはずのポケモンをも進化させてくれるのだという。




[ミスター急所の慟哭]





「ホントかよ?」
「知らないね。ただの噂さ」
「そんな上手い話、あるもんか!」

口々に顔馴染みのミネズミたちがそう交わすのを、ボーッと空を眺めながら聞き流す。

「大体よー、ヤグルマの森まで行けたんなら、それまでに進化しちまうだろうよ。石なんて意味ないじゃん」

仲間内の冷静なやつがあげる言葉に、ミネズミもその通りだよなぁ、と思った。ヤグルマの森は、人間の町を2つ超えた先にある場所だ。たどり着いたならその時点で、相当レベルが上がっているに違いない。

進化の石の魅力は、なんの努力もせずに無条件で進化することができる点であろう。石のもとへ行くまでの苦労は、地道なレベル上げと同等だ。うんうん、意味ないじゃん。

「またなにシラけたこと言ってんのだよ」

こいつめ、と睨みつけて、別のミネズミが冷静なやつへくってかかった。

「俺がいってんのは、ミルホッグになってからその石に触れば、更に進化できるって話!」
「え…?おれらって、ミルホッグからまた進化できんの?」
「だから!それをさせてくれるのが、ヤグルマの森にあるってことさ!」

ミネズミの最終進化は、ミルホッグだ。生きとし生ける全てのミネズミはミルホッグ止まりなのである。
だがもし、そのスペシャルな石が今までにない新種の進化の石であれば、その常識が覆されるかもしれない。

「そんな話、信じらんないや!」
「そうだけどさぁ、万が一があるぜ。試してみなきゃ分からないだろ」

そりゃあ、その話が本当なら、試してみるまで分かんないよな。うんうん。ミネズミはそう思いながら、頭上の雲がオボンのみにそっくりな形をしている事に気づいてガン見した。うまそうだ。

「進化かぁ…進化すりゃ、モテるだろうなー」

それまで上の空だったミネズミは、仲間のその台詞を聞き即座に反応した。

「えッ?ホント?」
「そりゃーな。ミルホッグより上ってことだもん」

ここら一帯には、ミネズミたち未進化組しか住んでいない。ミルホッグが通ろうものなら、女子ミネズミたちは一様に黄色い声を上げるのだ。
ミネズミは想像した。2度の進化を果たし、誰も見たことの無いミルホッグ・イケメンのすがた になった己。「キャー、カッコいい!」「お先にどうぞされたーい!」「こっち向いてー!」と押し掛ける女子たち。

「いいなぁ、それ…。ボク行ってみようかな」

ミネズミがそう溢すと、仲間たちはケラケラ笑いだした。

「やめとけー!急所がいくつあっても足りないぞ!」
「100万回死んじまうぞ!」
「オマエは世界一1番道路が似合うミネズミさ!」

いっせいにそう言われたミネズミは、思わずムカっ腹をたてた。息を合わせるんじゃない、失礼な。

「いや…良い機会かもしれない。むしろオマエは行くべきだ」

その中で一匹だけ、ミネズミにそう促してくれるものがあった。しかし彼の言い分はこうだ。

「オマエのことだから、1000万回は急所にぶつけて…森につく頃にはすっかり急所が無くなってるかもしれないぞ!」

「そりゃ、ナイスアイディアだ!」「オマエの問題もとうとう解決だな!」「良かったなぁ」と口々にお祝いしはじめる仲間たち。
すっかり「いかりまんじゅう」と化したミネズミは勢い任せに言い放った。

「見てろよコンニャロウ!絶対に100万番道路の似合うミネズミになってやるからな!」
「や、そんなに道路ないから」















1/8

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ