ポケモン

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7.バニラの笑顔は飽和気味



またまた長い橋を渡って疲れきり、たどり着いたホドモエで待っていたのは、プラズマ団探しだった。
一体いつから、自分たちの旅にこんなカリキュラムが追加されたのか?

仏頂面のトウコに、自称「恋する男」は宥めるように繰り返した。

「そんなお前にアドバイスだ。チャレンジこそが人生なんだぜ」

「チャレンジ何回やらされるんだっつの…」

いく先々に現れるプラズマ団にこんな風に巻き込まれるのは、これでもう何度目だろう。こんな筈じゃないのにと思うとウンザリしてしまう。チェレンなんかは「退治しながら修行できる」みたいに言ってたが、トウコは真面目にやる気がなかった。その証拠に、こうしてのんびり恋する男と雑談してる。

「オレは恋する男チャールズ……。この街にそんなシケた面は似合わねぇ。後ろのヤツを見習いな」

「ん?」

チャールズにそう言われたトウコは、背後を振り返った。
小さなアイスがひとりでに浮かんでいる。アイスには目と口がついて、ヘラヘラ笑っていた。トウコは「わっ!?」とびっくりする。

「アイスのお化け!?」

「そいつはバニプッチさ。気をつけな、食えねぇぜ」

「あ…そっか。ポケモンか」

落ち着きを取り戻したトウコは、そのパッと見ヒウンアイスなポケモンを眺めた。楽しげに笑っているが、どこか危なっかしく揺れている。そして、何か茶色い包みのようなものを持っていた。
持っているというより、それはバニプッチの体にくっ付いている。己自身に凍りつかせているようだ。

「っていうか、コイツ…溶けてない?」

「オレは恋する男チャールズ。……ハートの炎でバニプッチをも溶かす罪な男さ」

「言ってる場合か!」

「というのは冗談だ。こいつが持っているのは、マーケットで売ってる漢方薬だな。つまり今コイツは、マーケットから出てきた…」

「げ。あの人混みを?」

トウコは目を丸くした。すぐ隣に立っているホドモエマーケットは商品だけでなく、人やポケモンでごった返している。あんな中にいたのでは、溶けて当然だった。

「なんでそんな無茶を…?もう!どうすりゃいいのよ」

「街の南に冷凍コンテナがある。すぐに連れて行ってやるんだな」

冷凍コンテナ。それならおあつらえ向きだ。果たしてコンテナに入り込めるのか分からないが、とにかく行こう。
トウコはふらふらしてるバニプッチに近づいた。バニプッチは逃げない。思い切って両手で氷の身体を持つ。

「あばぁぁぁ!!つべたあ!!」

「そりゃそうだ」

「もーっ!あんた動ける?あ、動けそうじゃん!はやくこれに乗って」

「そっ、それはオレ様のバイク―」

「いーでしょ!こっちの方がはやいんだから。ほら代わりに私のバイク!」

「マジか」

トウコはチャールズに自分のチャリを押し付ける。座席の後ろにバニプッチを凍りつかせると、大型のバイクにまたがった。バイクになど乗ったこともないが、幸いチャールズがエンジンをふかしたままでいたので動かす事ができた。
ドルルン!と獰猛な音と一緒に、急速で疾走する。トウコは夢中でしがみ付きながらも「うひょー、速い!あとで返すからー!」と言い残していった。

見送った恋する男とチャリンコの間には、哀愁が漂っている。



まっすぐ海の方角へ走ると、あっという間にその建物を見つけることができた。
トウコはバイクから降りる。バニプッチもパリパリいいながらくっつかせた身体を剥がしている。表情のせいで平気そうに見えるが、その全身は溶けかかっている。まるで汗だくなのに呑気に笑っている姿が、逆に心配にさせた。

「ふわっぷ、わぷわぷゎ…」

バニプッチは、まるで礼を言うようにもごもごとつぶやいた。そうして冷凍コンテナの建物へ向かって漂っていく。窓の傍のダクトにすっぽりと入り込んで、そのまま見えなくなった。

「行っちゃったよ…」

トウコは手持ち無沙汰に辺りを見回す。海から吹きつける風が、さっきより冷たい。建物だけじゃなくって、この辺り全体が冷凍コンテナなんだ。バニプッチにとっては、まだ快適な場所だろう。
それでも何故か、このまま帰るのが気がかりだった。あれだけでろでろのフラフラで本当に大丈夫なのかな、あいつ。…無事に溶けずに済んでいるか、確認してから戻ろう。そう意を決すると、すぐさま建物の入口を探した。

コンテナの中は、息が凍り付いて白くなった。寒いなぁ、と思っているとすぐ傍にチェレンの背中があるのを見つける。寒そうに肩をすくませている。

「メガネくんじゃないの」

「あ。来たね、トウコ」

「何してんの、こんなとこで」

「何してんのじゃないよ。そっちはどう。プラズマ団見つかった?」

トウコが首を振るとチェレンは「あと探していないのはここらだけだ」と告げる。流石だね、メガネくん。




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