ポケモン
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4.プラズマ団
カラクサで見かけた変な集団は、自らを「プラズマ団」と名乗っていた。
ポケモンを人間から解放する。彼らは口々にそう宣言して、力ずくで人からポケモンを引き離そうとしていた。
「どっ、どうして?あなたたちも、トレーナーじゃないの?!」
いつもは穏やかな緑色の目いっぱいに怒りをにじませて、隣りのベルはそう尋ねる。
訊ねられたプラズマ団の二人組みは、臆する事も、悪びれもせず高らかに言い切った。自分たちの行いは、全てのポケモンの為。ポケモンを自由にするために、プラズマ団は戦っているのだと。
そのポケモンを、容赦なく蹴りつけながら、だ。
「…というわけで、お前たちのポケモン、私たちが救い出してやる!」
これは彼らなりの方言で、要はパートナーであるポケモンたちを強引に取り上げてしまおうというのだ。
「そんなのお断りに決まってるでしょ!」
言ってることも大概おかしいけど、やっている事はそれ以上だとトウコは憤った。人のポケモンを取ったらドロボー。そんなのは、小さな子でも分かる常識なのに。
ところがそんな常識が、彼らには全く通用しない。何しろ、そんな小さな子どもからすらも、容赦なくポケモンを奪っていくのだ。
「どんな理由があっても、人のポケモンを取っていい訳ないよね」
チェレンは持ち前の冷静さでもって、女の子のポケモンを強奪した彼らの行いを否定する。
地下水脈で対峙したプラズマ団は、「果たして、そうかな?」と吐き捨てた。トレーナーはポケモンを苦しめる。人に使役され、苦しめられるこのポケモンは可哀相だ。こんな世の中は間違っている。
我々がそれを変えてやるのだ、と。
「何よそれ!だからって力ずくで奪い取る事無いでしょうが、あんな小さな子が泣いてるのに!」
「そんな事を言ってれば、いつまでたってもポケモンは不幸なままではないか、愚か者め!」
信じてるんだな。トウコはそう思った。この人たちは、自分たちが正しいんだと強く信じている。
「例え力ずくでも、それがポケモンを幸せにできる手段ならば構うものか!!」
いつか、自分たちの愚かさに気づけ。そういい残すと、二人のしかめっ面に見送られ、彼らは去って行った。
こりゃあ、チェレンじゃないけど、……すっごく面倒だ。
* * *
「まずはポケモンを回復しましょうね」
シッポウシティのポケモンセンターで、受付のお姉さんは宥めるように言った。その手馴れた、落ち着いた動作も目に入らず、トウコはただただミジュマルとミネズミの入った二つのボールを見る。
トレーナーとの対戦を連続でこなし、クタクタに消耗しきった所へ遭遇した野生のシママ二匹に、ミジュマルもミネズミもK.Oされてしまったのだ。
急所に当たって撃墜されたミネズミ(ほんによう当たるなキミは。)に次いで、電撃に弱いミジュマルも草むらに倒れ伏す。二匹が奮闘してくれてたおかげで、野生のシママもその時にはふらふらだった。ほとんどパニック状態だったトウコが、二匹を抱えて何事もなくポケセンにたどり着けたのも、そのお陰だろう。
「お待ちどうさま。これで二匹とも、元気になりましたよ」
お姉さんが差し出した二つのボールを受け取って、ありがとうございます、とお礼を言う。いつもなら「全然待たないなー。科学の力ってすごいなー」と呑気な事を考えるけど、今回ばかりは手元に戻ってくるまでの時間が長く感じられた。
「ごめんね、アンタら……痛かったでしょ」
避けようと思えば、幾らでも避けられた戦闘だった。途方もなく強いトレーナーに完封された訳でも、シママたちに追いかけ回された訳でもない。無茶をさせたのはトウコの責任だ。
二つのモンスターボールは、トウコの掌でがたがたと揺れ動く。
「…これもどうぞ。あなた、肘を擦り剥いてるわよ」
受付のお姉さんはそう言って、バンドエイドを数枚トウコに渡した。
お姉さんは優しげに目を細めている。手持ちのポケモンが全滅して取り乱すトレーナーの対応など、彼女にとっては日常茶飯事なのかもしれない。
「あ……すみません。ありがとう…」
「いいえ。申し訳ないけれど、ここは人の治療をする所ではないから、それくらいしかあげれないの。頑張ってくださいね」
もう一度お礼を言って、ポケセンを後にする。シッポウの小洒落た街並みに吐き出されても、手の中のボールはまだ動きが収まらない。
トウコはミジュマルとミネズミを外へ出した。
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