ポケモン

□3
1ページ/3ページ







3.話してたよね。


カラクサタウンのポケモンセンターから出ると、広場には先ほどまでいなかった人だかりができていた。
人々の中でもひときわ目を引いたのは、おかしなカッコに身を包んだ集団だった。カラクサの住人達が遠巻きに集団を見つめている。その人々の中に幼馴染の後姿を見つけて、トウコとミジュマルは足を運ぶ。

「ああ、トウコ」
「チェレン、これ何事?」
「知らない。演説だってさ」

演説?ますますもって強まる胡散臭さに興味を引かれ、トウコはチェレンと並んでその集団を見守った。その内、彼らの中でもひときわ派手な格好の一人が、よく通る低い声で話をはじめた。自然と耳を傾けたくなるような話し方だと思った。

その男性が話した内容は、要約すると、ポケモンの為に人間は彼らを手放すべきだ、というものだった。

「都会には色んな奴らがいるとは思ってたけど…なんか出発早々、すんごいのに会ったね…」
「……いや、トウコ。確かにカノコよりずっと大きい街だけど、ここを都会と呼べるかは疑問だよ」
「あっ!今、しれっとカノコをディスったね?」
「え?」
「この薄情者。チェレン君はあれかな?都会に暮らし始めた途端、地元を田舎呼ばわりする人なのかな?けっ、おのぼりさんめ!」
「……メンドーなやつだな」

チェレンが不機嫌にそう言った時、男の演説が終わった。丁寧に挨拶をして締めくくると、申し訳程度の拍手がぱらぱらと上がる。街の人たちは殆どが、当惑したような反応を示している。チェレンもトウコも、拍手を贈ったりはしなかった。

「まぁ、旅立って早々聞きたい話しではなかったよね」

整列してきびきびと街を立ち去っていく集団を目で追い、チェレンは低く感想を述べる。トウコも男の言葉を思い出して返事をする。

「ポケモンを解放…だっけ?」
「ふぅん。ちゃんと聞いてたのか。…珍しい」
「なんだいその言い草は!」

今度はトウコが不機嫌な声を上げる。しかしそんなに腹を立てた訳ではなかった。むしろチェレン同様、何だかんだで耳を傾けた自分を意外に思うくらいだ。
男が主張した持論を思い出す。けど所詮は、他人の意見だ。おまけに変な格好だ。そうは思っても、一笑して流すだけの内容ではなかった。少なくともトウコにとっては。

人って……私たちって、本当にポケモンの事を理解できてるのかな。
私には、まだ全然わからない。怖くない子もいるのは、わかっている。ミジュマルやミネズミのような、人と歩み寄ろうとしてくれるポケモンもいる事を。
けど逆に、人を嫌い人に怒って、害を与えようとするポケモンだっている。

私には、わからない。

「みーーっじゅぅ…」

いつの間にか俯いてたトウコの耳に、ミジュマルの声が聞こえた。
間の抜けたような、穏やかな声に目を向ける。ミジュマルはチェレンの真似をするように、ヘンテコ集団のいなくなった辺りを見ていた。徐にぺちぺちとトウコの足を叩いて、「ジュジュンゴ」となにやら言っている。

この先、少しでもポケモンを理解できる時が来るだろうか。トウコはミジュマルを見つめながらそう思った。そうでないにせよ、今ミジュマルとミネズミにさよならをするのは、あまりに早過ぎる。

「キミのポケモン…今話してたよね」

ふと誰かがそう言って、トウコは目の前に人がやって来てるのに気がついた。髪の長い、キャップをかぶった青年だった。



.

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ