ポケモン

□Pkmn
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2 鋼のキズナ(笑)



ルカリオは悩んでいた。

彼を育ててくれたトレーナーは好人物で、彼女の事はとても気に入っている。明るく優しく努力家でかわいい。文句なしのいい人だ。しかし、そのトレーナーや仲間のポケモンたちとの修行の日々が、彼を悩ませてもいた。
今日も今日とて「さぁ、特訓だよっ!」の一声から始まり、シャラからショウヨウ、コウジンまでの道のりをひたすら走りこむ。立ち並ぶ岩を砕きまくる。砂浜に足を取られながらうさぎ跳びをする。何処までも広がる海を尻目に、ひいこらしょと汗を流す。

正直ちょっと、ウンザリしていた。

「何を言ってるんだ。ここまで強くなれたのはご主人のおかげじゃないか!」
相方のルカリオは、そう大真面目な顔で言い切った。
その通り。彼らの主人はとびきり優秀なポケモントレーナーだ。シャラシティのジムリーダーを務めている上、ナントカってやつの継承者の座をも担っている。彼女自身や、言うまでになく彼女と共にいるポケモンも、強さにはこだわっていなければならない。

「それはよく分かっているんだけどさ…だってほら、おれは特攻型なんだよ」

「適当なことを言うな。大体そういうのはご主人が決める事だ。ここまで一緒にやってきておいて、恥ずかしくないのか。そんな台詞を吐くだなんて!」

「うう…」

何を偉そうに、と思わなくもないが、実際こいつはご主人以上に熱血な脳筋野朗であったため自分の数倍はまじめにトレーニングを積んでいた。言い返せない。

だけど、やっぱり思ってしまう。もっとマイペースに、のんびり暮らせたらどんなにいいだろう……せめてこの特訓地獄から抜け出せたらいいのになぁ。

そんな風に切なく思いながら、ピカピカに輝く海と静かなさざめきの中を、暑苦しく特訓する毎日を送っていた。(何気にこの海岸は、修行している連中が多い。もっとのんびりいこうよ。せっかくの海だぞ?)






ある日の事。大都市ミアレシティのすぐ傍にあるスケート場まで足をのばす事になった。ご主人は筋金入りのスケーターなのでよく特訓がてら立寄る場所だ。でもその日は人間たちがしきりに「停電、停電」と騒いでいたので、もしかしたら様子を見るためという理由もあったのかもしれない。

「コラ!お前またサボろうとしているな?」

相方の怒った声がいきなり飛んできて、ルカリオは思わず首をすくめた。

「そんなんじゃない。休んでいたんだ」

彼はサボる気満々だったのだが、平静を装ってそう言い返した。

「なんじゃい。どうかしたんか?」

ずしんずしんやって来てそう訊いたのはハリテヤマだ。これまた相方のルカリオ同様、己にも己以外にも厳しいやつで、ルカリオが苦手とするタイプのポケモンだ。ルカリオはその巨体を見上げながら、そいつの口調を真似してぼやいた。

「どうもしとりゃせんわい。まったく、うさぎ跳びすればいいんだろ。うさぎ跳べば」

「おう、そーか。聞いちょるぞ。おんし最近弛んどるんだってな。ここは一戦やって、気合を叩き込んでやろうか?」

「いいんだ、ハリテヤマ!俺がぶん殴る。いい加減こっちも我慢がならなくなってきてたとこだ。おい行くぞ、このサボり野朗!」

この脳筋どもときたら、なんてめんどくさいんだ!助けを求めてご主人を振り向くも、彼女は文句のつけようのないキラキラとした笑顔で「お、また戦ってるんだ、ファイト!」と応援しだした。あぁダメだ。この状況を全く違うふうにとっている。でも、かわいいからな。仕方ない。カワイイは正義だ。

もういいや。この場は逃げてまえ。

待てコラー!と怒る相方の声を背に、スケート場を飛び出す。ここへ遊びに来ている他の人間やポケモンたちの間をかいくぐっていく内に、こうなったら今日はとことんサボろうという変なやる気がみなぎってきた。もうどっちにしろ、シャラへ帰ればあの二匹にプンスカ怒られるのだろうしな。

「ええー?じゃぁ未だにハリマロン一匹なの?」

すぐ傍で上がる大声に思わず振り向いてみると、人間の男の子が三人そこで立ち話をしていた。そのうちのハリテヤマ的体格の奴が驚いたようにそう言っている。それに青い服の奴が「そうだけど…」と歯切れ悪く返事をした。

「あのぅ、図鑑の方はどうですか?まさか、忘れて…」

三人の中で一番小さな奴が困ったようにいうと、青服は首を振って笑った。

「忘れてないよー。でも最近はほとんど触ってないや…いやいや、本当に忘れてなんかないよ!ね、ちゃんと見つけてるだろ?」

「ええと、あのですね…図鑑はポケモンを捕まえないとデータが書き込まれないんです。それじゃ図鑑とは呼べないでしょう?カルやん。捕まえないとダメなんです」

「あ、そ、そうね…」

「それにねーカルやん!野生のポケモンは時々群でやって来るんだよ。この先も一匹のままじゃちょっときついんじゃないかなぁ?それにホラ、ハリマロンだって一緒にいてくれる仲間が増えれば楽しいと思うよ」


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