ポケモン

□Pkmn
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爽やかな風がふきつける新緑の町、フタバタウン。

そこにはヒビキという名の少年が住んでいた。母親が作るちょいとブラックジョークな名前の料理が大好きな、元気な少年だ。

フタバの風のように気まぐれに、ヒビキは外へ出る。そしていの一番に目にしたのは、ひとんちのまえでぴょんぴょこ跳ねている、青い物体だった。

―マリルがいる・・・・
嫌な予感がしたとたん、青いポケモンはヒビキの鳩尾に突激した。
「ぐふえっ!」
「あ、ヒビキくんだ!おはよー」

ニコニコ笑ってあいさつしたのは、幼馴染のコトネだった。マリルの親分もといトレーナーだ。

「いきなりなにすんだ!」
ヒビキはみじめに丸まりながら、涙目でマリルとコトネを睨みつける。やつらは全く同じような顔で、じつに無邪気そうに笑っている。笑うんじゃねぇよ!

「マリルはね、ヒビキくんが好きなんだよ」

「嬉しいといって欲しいのかそれは」

幼馴染とはいえ、ヒビキはこのにこやかな少女を理解できていなかった。得体が知れないのだ。

「本当だよ。ヒビキくんは昔から、ポケモンになつかれやすいもんねー。ついつい焼いちゃて、うっかりころがるさせちゃった」
「やっぱり、けしかけてんじゃん!」

主人公より先にポケモンといちゃつく奴がよく言う・・・むぐむぐと不満を申すヒビキをシカトして、コトネは明るい声を上げる。
「あ、そうそう。ウツギ博士がヒビキくんのこと呼んでたよ。何の用事かな?」

マリルを両手に抱えながら、コトネはある建物を指差す。この町で一番大きなその建物は、実は名高い研究所だ。

「え、何だろう・・・おれ何かしたかな」
とたんに不安になるヒビキ。何しろ後ろ暗い事は結構ある。

博士が調査として使ってるポケモンに眉毛を描いたり、おつかい(と言うかパシリ)のお金でこっそりおやつを買ったり。・・・もしかして、こないだ「博士、味噌汁こぼし疑惑で夫婦喧嘩なう」とつぶやいたのがおれだとバレたのか!

そんなばかな、と憂鬱になるヒビキに「ファイト!」とコトネが励まし、「まりろ!」と同じようにマリルも鳴いてみせた。むかつく。
さっきのお返しもこめてそのはげ頭に空手チョップをお見舞いすると、脱兎のごとく研究所へ向かった。

こうなれば男らしく腹をくくるしかねぇ。そのフレーズに自分でどこか悦にひたりながら、ヒビキは自身のショボイいたずら行為を開きなおることにした。

しかし研究所の前に辿り着いてすぐ、変なものを見つけて立ち止まってしまった。
―覗きがいる・・・

雑木林にまぎれて、窓から一心に中を覗き込んでいる奴がいた。ヒビキが眺めている事にも気づかない程ご熱心のようだ。派手な赤毛が目につく、同い年くらいの少年だ。
・・・何か怖かったのでヒビキはその覗き魔を見なかったことにして、研究所のドアを押し開けた。

「はぁーっ・・・田舎ってのは何でこんな退く・・・・・ぶブっ!」

入ってすぐのところで椅子に座ってぼやいていた研究員は、ヒビキが入ってきたことに気づくと、お茶を噴き出した。

「あーいそがしい!ネコの手も借りたいよ、ヒビキくん!こんにちは!」

「聴こえなかったと思ってんすか?」

呆れてたずねるが、研究員は無視を決め込んで「博士が呼んでたよ!さぁ行って行って!」と奥の方へ半ば押しやるのだった。
覗き魔の事を忠告しようとしていたヒビキは、その期を逸した。まぁ退屈してたみたいだしいっか。鼻ほじってる所でも、勝手に覗かれていればよい。

そうして押しやられるまま、ヒビキはウツギ博士と対峙した。さて、さっさと終わらせて遊びにいかなければ。

「よくきたね、ヒビキくん。実はお願いがるんだ」
ウツギ博士はにこにこしている。―ん?なにやら流れが予想外だぞ・・・

「実は僕の知り合いにポケモンじいさんと言って、ポケモンの卵を見つけては大発見ですぞ!と騒ぎ立てる素敵なじい様がいるんだ」

「そいつは素敵すね」

にっこり話す博士に、にっこり返すヒビキ。言葉って偉大だ。

「でね、さっき連絡があって、今度こそ本物ですぞ!と言う事らしいのだけど、あいにく僕も助手も研究で忙しくって・・・」

本日二度目の嫌な予感だった。まさかこの人、こんこんと説教する代わりに、厄介ごとを押し付ける気なのでは。っていうかあんたの助手「退屈」とかぬかしてたぞ!よく見ろよ!

「そこで君に僕らの代わりに行ってきて欲しいんだよ。ここからちょっと遠いんだけど、引き受けてくれないかな?」
「えー、面倒くさいで・・・」
「その代わりポケモン貸すからさー」
「ぽ、ポケモン!?」

とたんにヒビキの目の色が変わった。ヒビキはまだ自分のポケモンを持っていなかった。しかしポケモンなんて、そんなにホイホイ貸してくれるのだろうか。

「マジっすか?」
「勿論さ。やったー、引き受けてくれるんだね?助かるよ!」

誰もそんな事言っとらん。しかし、ヒビキの不満はすぐに掻き消えた。ついに自分にも、ポケモンを向かえる日が来たのだ!





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