ポケモン

□Pkmn
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【番外】 それでもやっぱり勝ちたいのです。



「意外に可愛いもの好きなんだね」

唐突にそんな事を言われて、セレナは首を傾げた。

「意味がわからないわ」
不思議に思って、低い声で聞く。気を悪くさせたと勘違いしたのだろう。友だちは慌てたように言葉を付け足した。

「なんか、セレナのポケモンみんな可愛いからさ。それがちょっと意外だった」
「あら、そうなの」

セレナは友だちのカルムと、ヒヨクジムにすぐ近いベンチに腰掛けていた。緑と海を見おろす、とてもいい景色だ。傍では二人にボールから出してもらったポケモンたちが、がやがやと楽しげに遊んでいる。絶壁がすぐそこなので少し危ないが、セレナは特に心配していなかった。みんな賢いし、いざとなればニャオニクスのサイコキネシスを使えばいい。

さき程、ヒヨクジムのまん前で真剣勝負をしたばかりだった。だからかそれぞれのポケモンたちは、すっかり打解けている様子を見せている。
だがその時、「ウゥゥーッ…」と低い唸り声を上げて、おもむろにアブソルが立ち上がった。「可愛い」という分類に自分も入れられたのが癪にさわったのだろう。それまでポケモンたちの傍で静かに腹ばいに座っていたアブソルは(彼とヤミラミの2匹は、あまり騒ぐのが好きではないようだ)、不機嫌な顔でカルムを睨みつけている。

「あれ?何で怒ってるんだ」
「君が勝手なコト言うから、気に触ったみたいよ?」
「ご、ごめんってば……でもさ、アブソルって結構、可愛わわわわわわ!」
「それ確か、シンオウ地方のギャグよね」
「こっ、怖いよこいつ!」

一瞬で跳んできたアブソルに目の前で凄まれて、お隣さんは仰天していた。セレナが笑いを堪えて「やめてあげて」と頼むと、アブソルは従順にベンチから飛び降りて、元の位置にどっかと落ち着いた。

「ふー、こえぇ…」
「そんなに意外かしら。私が可愛い子を手持ちにしてたら」
「ああ、いや…イメージ的には、可愛いというより、強くてキリッとしたポケモンが好きかな、何て勝手に思ってたから」
「そう。勝手にね」
「はい。ごめん」

セレナは気軽に肩をすくめて見せた。そんな事は、一向に気にしない。それよりも、この友だちにまたもや負けてしまった悔しさの方が何倍も強かった。でも、それを気取られるのはちょっぴりみっともない。セレナは何となく口を開いた。

「そうね…初めから強いポケモンなんか、いないと思う。強いポケモンが好き、というのとは全然違うわ」

わぁわぁ、と笑い声をあげるポケモンたちを見て、呟くように言った。絶壁の上を、ゴンドラが下に向かって通り過ぎていく。アブソルとヤミラミは「我関せず」といった様子でいるが、テールナーにニャオニクス、ハリボーグとエレザードとルカリオが、それに向かって陽気に手を振っていた。誰かがゴンドラの中で、振り返してくれているのだろうか。セレナは思わず微笑んだ。

「私はトレーナーだもの。好きになったポケモンを強くするの」

さてと、そろそろ出発しよう。セレナが立ち上がると、じっと海を眺めていたアブソルがいち早く反応した。それを見てセレナは、やっぱり、と思った。彼もまた悔しいのだ。一刻も早く、鍛錬を始めたいに違いない。
「行きましょう!」と声をかける。トテトテ駆け寄ってきた3匹をボールに戻した。

「それじゃ、また。次は負けないわよ。お隣さん」



初めてこのアブソルに出会ったとき、可愛いという印象は受けなかった。
会って一目で、勝負が好きな子だとわかった。野生のポケモンにしては立ち回りが多彩で、こちらの隙を容赦なく打つ。必死に戦う一方で、セレナはわくわくと胸を躍らせていた。この子を捕まえよう。すぐにそう思い立って、今こうして一緒にいる。

テールナーもニャオニクスも頼もしい事に変わりはないのだが、強さや勝ち負けにこだわるふしは見せない。アブソルはその真逆だ。たとえどんなポケモンが相手だろうと、勝つ事しか考えていない。勝ったときの喜び様も、負けたときの沈み様も一段と大きい。
自分と同じ、負けず嫌いなのだ。



なのでセレナは、少しだけ後悔していた。

「私がアナタの力を引き出すからね」

まだフォッコだった一番最初のポケモンに、かつてそう断言した。
強いトレーナーになる。ポケモンと精一杯の敬意で向き合い、一緒に強くなる。そんなトレーナになるのが、彼女の小さい頃からの夢だ。それは今も変わらない。
しかし、そんな事を軽々しく約束して、本当に良かったのだろうか。

もし勝たせてあげられなかったら?どんなに頑張っても、力が及ばない相手がいたら?

トレーナーのかわりに傷ついて戦ってくれるポケモンたちを、さらに傷つけてしまうんじゃないだろうか。
もしそうなってしまったら、なんと声をかければいい?

「キミたちを強くしてみせる」
トレーナーに憧れ、待ち焦がれていた幼い頃、何度その言葉を使っただろう。
けれど今、最後にその言葉を使ったのがいつか、思い出せなかった。



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