ポケモン

□Pkmn
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ED 「いつもどおり」の秘訣



「はーっ、着いたー」
チャンピオンロードの閉じきった空間から出て、カルムは腰に手をあて思いっきり伸びをした。上身をそりまげて見上げる空は、星でいっぱいだ。
土ぼこりの階段を昇って出ると、でむかえてくれたのはポケセンの建物。そそくさと中に入って4匹を回復してもらった。ここまで来るとさすがに、ポケセンの中も雰囲気が違って見えるのだった。

外へ出て少し歩くと、遠くにそびえ立つ巨大な城が目に飛び込んできた。カロスのポケモンリーグだ。石畳のアーチをくぐって、粛々と敷地の中へ進み出る。夜闇に浮かぶ白い石壁。鮮やかなステンドガラスの窓には光がある。
「やってるやってる…」
まるで行きつけのお店か何かを前にしてるかのような台詞を吐く。しかしその声は、誰が聞いても緊張で強張っていた。

(こんな所まできたんだな…)

別段、この場所を目指した旅でもなんでもなかった。気の赴くまま、その場の流れに沿うがまま、好き勝手に放浪してきた。それでもこの場所へ立つと、感慨にふけってしまう。
カルムはちょっと考え込んでから、おもむろにポケモンたちのボールを取り出してあけた。

「えー、皆様…とうとうポケモンリーグだよ」
カルムは不思議そうにしている仲間たちに相談事を持ちかけた。一緒に来たんだから、そんなこと分かってるよ、という顔だ。

「それでさ、レポートもばっちり書いたし、もうここには、何時でも来られるんだけど…どうしよう?今すぐ挑まなくっても、いいよな。気分が乗らないんじゃ、また今度にしよっか?」

4匹は顔を見合わせた。

「くぉんぬ」
そう短く鳴いて、ルカリオが拳をコツンとカルムの肩に当てる。

「あれ、おまえやる気なのか?めっずらしい…」
「くううぬ!」
「あイテ」

ルカリオは小馬鹿にしたようにカルムを小突くと、早く戻せ、とボールを指差す。
コルニの元から引き取って間もなく、サボり魔であることが判明した変わり者のルカリオ。最初の頃は何やら反抗的で言う事をきかないときもしばしばあったが、今ではメガシンカも嫌がらずにやってくれる。

やっぱり格闘タイプの血が騒ぐのだろうか。一度出たバトルから引き戻される事をとても嫌がった。戦いは好きじゃないくせに、熱くなりやすい性質なのかもしれない。

「じゃぁ、たのんます」
「くわん」
満足そうに笑うルカリオを、カルムはボールに戻す。

「どうする、お前は。こんなところにまで、付き合ってもらってるけどさ」
「……ぎぎぎ、」

全くだ、と言いたげに、ヤミラミが静かに鳴いた。
失恋から始まった出会いは、ずいぶん昔のはなしだ。なりゆきで誘うと本当についてきた。この旅で失恋の傷を少しでも癒せただろうか。どちらにせよ、この先に待つ激しい戦いに参加するいわれはそれほど無い奴だ。

カルムはたまに心配になって、「なぁ、そろそろ洞窟に帰りたくないの?」と訊ねては、癇癪を起こしたように暴れるヤミラミに顔面を引っかかれた。実はそのたびに、だったらまだ一緒にいてくれるよな、と安心していたのだ。

「うわっ」
ヤミラミは何の前触れもなくカルムの方へ飛び掛ると、ふところからササッとボールを奪い取った。ギザギザの歯を見せて嗤う。

「お前もたいがい、酔狂さんだよなー」
「ぎゃっぎゃぎゃしし」
「ありがとう。たのんます」

カルムはヤミラミが戻ったボールを拾う。

「エルルァーーーーッ!」
「お前は、きくまでもないって感じか」
エレザードは高らかに叫んで、エリマキをばばっと広げてみせる。ばちばちと鋭い火花がそこから飛び散った。

気の強さと唯一のバトル好きであることから、自然と特攻隊長となったエレザード。意外にお洒落に目がなく、カルムが気まぐれに買った羽飾りやグラサンを身につけてご機嫌になったりする。そしてよく壊される。

そんな性格だから色々と振り回されたり、トラブルにあう羽目になったり、結構がやがやしい奴なのだが、どうしても憎めない。要するに、可愛い奴なのだった。最もカルムが「可愛いな」というと怒って放電するくせに、サナやママが「可愛い!」というとあざとく笑ってるのだが。

「一番手、お前だからな。たのんます」
「えるるぅぅぅーぅ!」
にっこりと嬉しそうに、エレザードはボールに戻る。高らかな声が止んであたりは一気にシーンとなった。

さて、とカルムは最後の一匹に向き直った。生れてはじめて、自分の相棒になったポケモン。昼寝が大好きで、隙を見ては居眠りばかりしているのが常なのに、どういう訳か今はちゃんと起きている。

「寝てなかったな、お前」
「ぶろぉお」
「あはは、でっかくなったよなぁ…」

進化を二度経た姿は、縦にも横にも大きくなっている。初めて会ったころはカルムが両手で抱きかかえるほどしかなかったのに、今やカルムの方がブリガロンを見上げている。



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