ポケモン

□Pkmn
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6 アサメの小路



「痛い!」

鋭い痛みとともに目が覚める。きゅりきゅりりぃ、と高い鳥の鳴き声が、部屋に反響していた。外じゃなくて、中で囀っている。
何かと思ったら、ママのヤヤコマだった。ヤヤコマはカルムが目を覚ましたのを満足そうに見届けると、「ぴろろろ〜」と下に飛び去っていった。
びっくりした。起こしに来るなんて珍しい・・・てことは、寝坊しちゃったのか。「当たって砕けろ!全力で行け!」という信条のトレーナーに育てられたヤヤコマの一撃だと思うと、ちょっと空恐ろしかった。手加減してくれたのだろうけど、一人息子の頭がかち割れたりしたらどうするんだ。
「やれやれ」とどつかれた肩をさすり、設置するのに一苦労だったテレビや空っぽの洋棚、いつの間にやら落っこちてた枕をぼんやり見回した。新しい自分の部屋。

そういえば、もうカロスなんだよね

新天地でのスタートがヤヤコマモーニングコールというのもアレだけど、それでも膨らむ期待を抑えるにはおよばない。カルムはさっとベットから飛び降りると、身支度をすませ下に降りた。

「アラ、おはよう!」
「おはようー」
「ぴろりろ〜」

外はとてもいい天気で、ママは残りの引越し作業に勤しんでいた。と言っても、あらかた昨日で終わっているから、コーヒーを飲みながらのんびりやっている。朝食の用意はとっくに済ませてあって、やっぱり自分は寝坊したのだとわかった。

「よく眠れたみたいね。よかったよかった」
「手伝うよ」
「こっちはもう終わるわ。それより、記念すべきカロスの一日目よ、ぼっちゃん!」

ママはせいせいと楽しそうに言った。カロスはママの故郷だ。

「ご飯食べたら、外に行ってご近所さんに挨拶してきて。ついでにアサメをゆっくり見てらっしゃい」
「やった!」

そうなると、もう外に行きたくてたまらなかった。カルムはキッチンに椅子を引いて、飲み込むように朝ごはんをかたす。トーストの最後の一口をほおばると、食器を流しに押し込んで玄関に向かった。「きりゅりゅりっ」と何処からともなく声がしたと思うと、ぽとりと帽子が頭にかぶさる。
「ありがろ」
もごもごしながらヤヤコマに礼を言う。目深に被り直して、グラサンの位置を確認した。

「じゃあよろしくー。サイホーンちゃんは、ゆっくり寝かせといてあげてね」
「きゅりいい」
「うん。行ってきます」



「おっきぃーい!それにすっごく大人しいねー!」
「だって、寝てるじゃない…」

外へのドアを開けて、しかしすぐに立ち止まった。庭に陣取るサイホーンのそばに、二人の知らない女の子がいた。

サイホーンは昨日の大役のせいか、ぐっすりと眠りこけている。二つおさげの活発そうな女の子が、飛び付かんばかりに近くで見ているけど全然起きる気配はなかった。もう一人の金髪の子は二三歩退いた距離で落ち着いて立っていたが、やはり興味深そうにサイホーンを覗きこんでいる。

まさか第一歩目で誰かに会うとは思わず、鼻白んでしまった。しかも同年代の女の子。町の子だな、きっと。声をかけるため歩み寄ると、金髪の子がこちらに気がついた。

「あ、初めまして。お隣さん」
「わぁい、きたきた!初めましてー」

カルムも初めまして、と挨拶する。サイホーンからひとっ跳びでやってきた活発な子はサナ、お隣さんと呼んだ落ち着いた子はセレナと名乗った。
よろしくといって笑うと、サナは元気いっぱいな、セレナは一転して年相応な笑顔を返した。

「昨日来たばっかりなの?」

サナは何故か驚いたようにそう訊いた。うん、とうなづくと、セレナが口を開く。

「だったら、来て早々凄い話になるわね」



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