ポケモン

□Pkmn
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5 ネイティブダンサー


昔々。割りと最近な昔。

巨大な街に、一匹のポケモンがいた。ポケモンは一人の少女と寄り添うように暮らしていた。
彼らは親も住む家も無かったが、とても仲が良かった。お互いこの街で生れ、育った。この街のことが、それなりに好きだった……


*   *   *



もこおはマチエールと離れて、ミアレシティの入り組んだ路地に立っていた。

「ふぅ・・・」

彼は散歩を日課にしているので、こうして路地に佇むのは毎日のことだ。それでもどうしても退屈してしまう時がある。そんな時は、お気に入りの一人遊びを始めるのだった。

「危ない所だった…この右腕は…人混みには危険すぎる…」

今の所彼のお気に入りは、中二病ゴッコだった。ぶつくさと一人でカッコイイ台詞を呟いていると、背後から足を引きずるような音がする。

「貴様…!いつからそこに」
「花のポケモン…花のポケモン…」

のっぽの人間だった。かなり長い。もこおはとても驚いたが、これはちょうどいい、と笑った。人間にはポケモンの言葉は分からない。今まで習得したカッコイイ台詞を好きなだけ吐き出すいい機会だった。
そいつは「花のポケモン…」と連呼しながら、他人の玄関先にある花壇をじっと見下ろしている。やがてその家から住人が出てきたが、ブツブツ言いながらすぐ前に立っている大男の姿に仰天し、「ぎゃああぁっ!」と叫んで中に逃げ戻ってしまった。そりゃ怖いよな。

大男は慌てた様子も見せず、少し悲しそうに「どこへ行ったのか…」と呟く。のそのそとその場から立ち去っていくので、何だか面白そうだと思ったもこおは後をつけた。気づかれないようにこっそりと隠れながら、路地裏をずんずん進んでいく。

「うおっ?でっけーな、オジサン!」

すると、路地でたむろしている子どもたちと鉢合わせた。もこおともよく見知った面子の、マチエールの友だちだ。みんなはいきなり現れた大男に口を開けたが、逃げ出すことはなかった。小さいながらも、それなりに逞しくこの街で生きている身の上だ。好奇心でらんらんと輝く目がたくさん。

「ホントだ、でかっ!」
「なになに?ここ通りたいの?」
「オッサン!だったら通行料がいるよー」

子どもたちはみすぼらしいナリの男にお金をせび始める。だがこれは、彼らにとっては挨拶のようなもので、それよりも大男に対する興味がずっと強いのだともこおにはわかった。
大男はしばらく無言で佇んでいたが、君達は街の子ども達だな、と言うと自分の荷物を探りだした。大人しく財布でも出すのだろうか、という予想は外れた。出てきたのは、大きくて古ぼけた絵だ。

「金は無いのだ。代わりと言っては何だが、おじさんが紙芝居をしてあげよう」

ハ?となっている子どもたちを放って男はその場に座り込み、「昔々…本当に遠い昔・・・」と語り出した。
「いきなりなんだよ」「おーい、そんなのいいよ」「無視するな、聞けよ!」「何で紙芝居なんだ!」と不満の声があがり始めるが、気にしちゃいない。
もこおは、次第に諦めて紙芝居を眺める子どもたちと一緒にそれに見入ってしまった。好きなポケモンを死なせてしまった人間が、そいつを生き返らせるためにヘイキを造りそれで世界を滅ぼしてしまったという、ひどい内容だ。当然のように子どもウケはしなかった。

「コエー!兵器怖えー!」
「楽しくない!」
「なんでそんなの読むのさ?」
激しいブーイングに対して大男は「いや…紙芝居だし…喜ぶかなと思って」とすまして答える。
「そんなお話しに喜ぶわけないじゃん!」
「もっと明るくてオチのある話にしなよー」
「ポケレンジャーとか!」
「お姉さんとミルホっくんとか!」
「そんなの絵本にしてどうすんだよ!」

わーわー、と言いたい放題の感想を受けて、男の縦長の身体が心なしか縮こまったような気がした。
一方、もこおはガタガタと震え上がっていた。

人間ってやつは、怒るとそんなとんでもない物を造ってしまうのか?今まで人間の、特に大人たちに嫌な思いをさせられたことはあったが、まさかこんなに怖い存在だとは思ってもいなかった。


*   *   *



ポケモンはその日を境に、人間の大人が大嫌いになってしまった。
今まで以上に、見つかったら逃げるようになった。近づかないようになった。少女や親しい子どもたちにしか、心を開かないようになった。

そんなある日。一人の男が、彼らの前に現れた。
男に悪い心はなかった。しかしポケモンはどうしても怖かった。怖さゆえ、男に害意がない事に気づけなかった。

男は考えた。一体どうすれば、ポケモンの心は開くのか。



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