ポケモン

□Pkmn
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スペシャルエピソード5話後の暗黒じゃない未来にて。









この世界に太陽が戻ってきて、もう何日が過ぎたろう。

優しい温もりをくれる朝の陽射しへ今日も挨拶をしてから、セレビィは寝床にしている大木の頂上からスィーっと飛び降りた。同じ大木のウロで、寝坊しているだろう彼のもとへ。

「おはようっ、ジュプトルさん!」
「……あぁ、おはようセレビィ」

元気いっぱいなモーニングコールを受けて、ジュプトルは鋭い目をぱかっと開けた。時が止まり闇が支配していたあの頃のクセは簡単には抜けず、ちょっとした物音でもすぐに意識を覚醒させられるのだ。
それでもその目つきに、あの頃のような険しさも緊張も宿ってはいない。事あるごとに「目つき悪い!」とばかり言われている彼だけど、セレビィにはよく分かった。

「朝ですよ ー♪」
「朝だな」

2匹は笑い含みに言いあった。
いつしか2匹の間でも、朝が来ることが当たり前になって、こんなやり取りも自然としなくなるのだろうか。少なくとも今はまだ、そんな日が来るなんてセレビィにはちっとも思えないのだった。

「ねっ、今日は何をするか忘れてませんよね?」
「ああ、そうだったな。しっかり持ってるか?」
「はい!」
「よし。じゃあ、さっさと行くぞ」
「あっ…」

何やら言い澱み、思案し始めるセレビィに、ジュプトルは「どうした」と訝しむ。彼女は一生懸命こう続けた。

「えーっと、朝ゴハン…じゃなくて、晩ゴハンね。晩ゴハンまでは時間が早いと思うわ。だから、ちょっとのんびり行きませんか?」

2匹が朝から夕食の話をするのは、この時間からちょうど眠りにつく者––朝に静まり夜に蠢く者たちの話をしているからだ。セレビィたちにとっての朝食時は、その者たちにとっての夕食時だ。
「どうせならご飯時ピッタリに到着した方が良いでしょう?」と提案するセレビィに、ジュプトルはこだわらず「それもそうだな」とうなずいた。

セレビィはこっそりと、胸の内に沸く幸せをかみしめた。
彼とふたりきりで一緒に居られる時間を、どう長引かせるか。セレビィはいつだってそれに苦心してきた。––いつ果てるとも知れない世界で、悔いが残らないように。
あれこれ理由をつけて一緒にいようとするのは、もはや彼女のクセなのかも知れない。

(…嬉しい!)

セレビィもまた、クセが抜けきれていないのだ。




彼女の目論見どおり、朝の散歩がてらに2匹が向かったのは、深い森にある洞窟だ。
ギザギザの岩が壁のように広がり、湿った空気を纏う暗い洞穴が口を開けている。

その入り口のそばに立つだけで、わずかに冷んやりとする。しかし2匹は気にすることなく、慣れた様子で洞窟へ入っていった。

右へ左へ、くねくねと暗い洞窟を進んでしばらくすると、何かを焼く香ばしい匂いが辺りを漂い始めた。それに気がついたジュプトルとセレビィは顔を見合わせ頷くと、同様に足を速める。
すると、行く手から声が届いてきた。

「お前たち、ここへ皿を置くのだ」
「ウィィィィーーッ!」
「それじゃない、小皿だ!1匹1枚ずつだと言ったはずだぞ…!」
「ウィィィィーーーーーーッ!!」

ジュプトルはふんと一つ鼻を鳴らすと「いいぞ。ちょうどタイミングが合ったな」と呟いた。
セレビィは「そうですね!」と相槌を打ち、姿を現した声の主へ笑顔を向けた。

「おはようっ、ヨノワール!それにヤミラミ!」

仄暗い空洞にセレビィの明朗な挨拶が響くと、ヨノワールとヤミラミたちは一斉に振り向いた。

「ウィッ!?セレビィ!」
「ジュプトルも!」
「…!何をしにきた?」

ヨノワールは赤い一つ目をギラリと強く灯し、低い声でたずねた。その凄みのある形相も、片手に掲げたフライパンのせいでしまりがない。フライパンの下には紫色の陽炎(たぶん「おにび」だ)が怪しく揺らめいて、卵がじゅーじゅーと音を立てている。

「相変わらずのお母さんっぷりじゃないか。ヨノワール」
「ジュプトル、それにセレビィよ。オマエたちをここへ招き入れた覚えは無い。こんな時間に、何用だ?」
「ふん、招かれた覚えなど無いさ。勝手に来させてもらったぞ」
「威張るな」

和解したとはいえ、因縁の敵同士であった名残は消えず、ヨノワールとジュプトルは早速言い合いを始める。

「ヨノワールの朝ゴハン、美味しそう!あ、晩ゴハンでしたね」

セレビィはそんな雰囲気などどこ吹く風で、大きなフライパンに乗った沢山の目玉焼きを見て言った。それから、小さな皿を一つずつ掲げこちらを伺っているヤミラミたちへ目を向け、首を傾げる。

「さっきお皿がどうこう言ってたけど、何だったの?」
「…この者たちの取り皿の事だ」

ヨノワールはヤミラミたちをギラリと一瞥してそう答えた。

「こやつら、目を離すとすぐに食事の奪い合いを始めるのだ。せっかく人数分を用意しているというのに!」
「それで一匹一皿なのね」
「世話焼き母さんめ」
「だまれ」
「と、いうか…そんなに美味いのか?こいつらが食べるのは宝石とかだろう」
「ウィッ!オマエたちの分なんか無いぞ!」
「ヨノワールさまの目玉焼きは…」
「絶品だ!!」

ウィィ!ウィィ!と怪しげな鳴き声でセレビィたちへブーイングをかますヤミラミ軍団に、ヨノワールは「…静かにせよ」と戒める。その声音には微かな照れが含まれているように聞こえて、セレビィは可笑しそうに微笑んだ。

「で…何なのだ」

ヨノワールは至極迷惑そうにジュプトルとセレビィを見て言った。

「私たち、ヨノワールに聞きたいことがあって来たの」

改まった様子でそう告げ自分と向き合う2匹に、ヨノワールはかすかに首を傾げてみせた。















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