ポケモン

□Pkmn
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目の前に、見たこともない男の子が立っている。
青い服に赤い帽子をかぶり、ぼくより少し歳が上みたいだ。

「ラッサンブレ・サリューエ!」

いきなりそんな事を叫びだし、ぴしっと大仰な気を付けをしだす。なんだか楽しそうな、その知らない男の子を無言で見上げた。誰だこの人。何言ってんだろう。

「なんつってね。まだキミとバトルはできないから、おかしいかなこのあいさつ?…ゴメンね。友だちから教わったセリフなんだけど、一回使ってみたくってさー」

そう言って、相変わらず名乗ろうとしない男の子。しかし、大して気にならなかった。それよりも彼と並んで立つポケモンたちの方へ目がいってしまう。たぶんこの男の子の手持ちのポケモンなのだろう。彼と同じようにニコニコ笑っていて、ちょっと羨ましくなった。ぼくは自分のポケモンを持っていない。

「ドベで旅をはじめたおれが言うのもなんだけど、良い旅を!それから、どうもありがとう!おれがこいつらに会える楽しい冒険ができたのも、キミのおかげだよ」

どういうことだ?よく分からず首を傾げるも、男の子はただ笑ってこう言った。

「いってらっしゃい!…あ、そうそう。キミの友だちに、さようならはバイビーじゃなくてオ・ルヴォワールだって教えてあげてね」

男の子は立ち去った。ポケモンたちを引き連れて。



程なくすると目の前に、また別の男の子が立っていた。これまた青い服にサンバイザーをかぶって、彼もまた、見た事のないポケモンにかこまれている。

「ハーイ!リオルキッドことニューラニンジャことゴーストイレイザーなイッシュリーグチャンピオンのボクだよ!改めまして、こんにちは!サインしようか?」

これまた奇妙な人が現れた。さっきの人もだけど、この人も何を言っているのかサッパリ分からない。
サインなんか要らない、という事だけはっきりしているので首を振ると、彼は「げっ…!」と落胆してしまった。

「そ、そっか!この頃はまだ生きる伝説じゃないんだものね……ぼくのこと知ってるわけ無いか…そうかぁ…」

男の子はいじいじと指先をもてあそびながら呟いている。

「そりゃ当たり前か。どんなすごい人だって必ず、初めて何かをする日があるもんな。アナタは、どんな旅をするんだろうね」

旅だって?何のことだろう。
サンバイザーの男の子は、どこからともなくメモ帳を取り出して言った。

「いってらっしゃいです!あの、よかったら将来ポケウッド観てね……っていうか、サインください!!」

男の子は立ち去った。彼らのポケモンに引きずられて。



そんな彼とポケモンたちを見送っていると、すぐ隣りに、知らない女の子がやって来た。その人もトレーナーのようで、ポケモンたちを連れている。彼女のポケモンも、やはり見た事のない者達ばかりだ。

「おっす、はじめまして先輩。何の事か分からなそうな顔してるけど、すぐ分かるから」

どこか活発そうな、ポニーテールの女の子は意味深にそう言う。

「それにしても、こんな小っこい子でも悪いヤツらに立ち向かっちゃうなんて、凄いことだわね。ポケモンて、すごいよね!何でもできちゃう。だから、いろいろ争い事とかも起きるんだろうけどさ…」

小っこいと呼ばれて、少々むっとしてしまう。男の子にそのセリフは言ってくれるな、と思ったけど、口には出さなかった。

「はやくキミにも、自分の世界がひっくり返るような出会いが起こるといいね。ううん、絶対起きるから。いってらっしゃい!」

女の子は立ち去った。巨大なポケモンの背に乗って。




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