ポケモン

□Pkmn
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過去拍手話その1
ジュプトル視点。時系列は、プロローグと1話の間です。











 



苦労してたどり着いた「その街」へ入り込んだとき、傍らの相棒はこう感想を述べた。

「凄まじい所だな」

そうだなと思った。最初こそ時の流れを告げる鐘の音や、かろうじて光の宿った片空を綺麗だと思った。風がそよぎ水が流れ落ちるこんな光景を見るのは、うまれて初めてだった。
しかしあまりにも何もかもが、目まぐるしく動きまくっている。これが停止していない世界なのか、とジュプトルは微かに狼狽していた。見たことも聞いたこともないものが、次々やって来てはいなくなる。そして人の数の多いこと。目が回りそうだ。

だがそんな事より一番驚愕したのは、ポケモンと人間の間柄だった。



「ポケモンだ!気をつけろ、そこにポケモンがいるぞ!」

そんな悲鳴じみた声を投げかけられたのは、街に入ったその日のうちだった。
何をそんなに慌てているのだ、とジュプトルもカナヤもポカンとしてると、いつの間にか「犯罪者」として街人から追われる身になっていた。

この街ではポケモンは人から恐れられ、忌み嫌われていた。ポケモンも負けず劣らず、人間に対し怒り、毛嫌いしていた。
それだけではなく人間は、人とポケモンがともに生活する事を禁止し、厳しく取り締まっているのだという。

そうと知った時には既に遅く。おかげで一人と一匹は始終別行動を取る必要があった。一目を気にして、こっそり会わなければならない。

見た目ばかりぎらぎら光ってただっ広いくせに、なんて肩身の狭い所だと思った。



「ゆるさないぞ…アイツら、ぜったい許すもんか!」

ぶるぶると恐怖に震えながら、イトマルがそう人間を呪うのを、ジュプトルは聞いていた。

たまたまジュプトルとカナヤが一緒にいたとき、通りかかった路地で複数の人間がイトマルを取り囲んでいた。人間は全員がぶ厚い防護服に身を包み、機械でできた物騒な棒を握っていた。棒には電気が宿っているようだった。
あの人数からあんなもので殴られれば、命を落としかねない。そもそもその場の雰囲気からして、人間共がイトマルを殺す気でいるのは明らかだった。

カナヤとジュプトルは大慌てで人間たちを牽制し、隙を突いてイトマルと一緒に逃げ出した。

「落ち着け、もう大丈夫だ……一体どうして、あんな目にあっていたんだ?」

「どうしてだって!?そんなの何にもないのさ!やつらはただボクらを「クジョ」してるんだ。自分たちが生きていければそれでいいんだ。その為なら、毎日平気でボクらを殺しまわるんだ!」

イトマルの震えは恐怖からではなくなっていた。6本脚が不穏気にワナワナしている。

「仕返ししてやる…!いつか、アイツら全員、ずたずたにしてやる!!」

そう叫ぶとイトマルはジュプトルを突き飛ばし、路地の暗がりへ走り去ってしまった。ジュプトルもカナヤも、彼が消えた方を黙って見てるしかできなかった。



寂しい所だ……とんでもない場所だ。
ここは時間が息づいて、暗闇から免れている世界のはずなのに。ポケモンと人との関係はあまりにも冷え切っていた。

それでもこうして時が流れている以上、時の歯車が眠っているという話には信憑性があった。それが本当にあるか否かをつきとめるまで、ここを立ち去るわけにはいかない。

「きっと、見つかるよ…きっと……それまでの、辛抱だ」

カナヤは肩をすくめてそう呟いた。コイツは何が起きても、少し時間が経つと笑いとばしてみせる。いつもはそれに呆れ果てることが多いのだが、逆に凄いことだと感心する時もあった。

ふいに、辺りがいっせいに暗くなった。

この街の「夜」が来たのだ。「昼」の時間は、あらゆる場所に立つ巨大な電灯が煌々と灯って明るい。そうやって擬似的に昼と夜をつくり出しているらしかった。
しょせんは偽物だ、とジュプトルは思っている。しかし相棒はかなり気に入っているようだった。
「明日がくる」という今までにない事象に感じ入っているのかも知れない。いつも夜になると、決まった台詞をはくようになった。

「また明日、頑張ろうな」

力強い口調で言う相棒に、そうだな、と頷いた。











終わり

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