ポケモン
□Pkmn
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1 洞窟にて
「じゃんっ、見て見て!」
ここはショウヨウシティ。海辺のカフェのカウンター席で、隣に座るサナはころんと丸っこいポケモンを胸に抱きしめて言った。
「高そう」
「そうじゃなくて、かわいいでしょ?」
カルムの述べた第一印象をさりげなく訂正すると、両手を広げてポケモンを放す。サナの膝の上に浮かんだそいつはゆっくり回転しながら、長い耳をぴょこんと振った。サナのジュースに気がついて、グラスの中の鮮やかな色を覗き込んでいる。
なんてポケモンなの?と訊こうとして、やめる。トロバの真似をして図鑑を取り出した。この間、彼に会ったとき「図鑑の方はどうですか?」ときかれ「ほとんど触ってないや」と正直に答えたら、こちらがひどく傷つくような表情で見られたのだ。
図鑑には「メレシー」という名前だけ載っていた。
「フェアリータイプ?」
「そ!宝石ポケモンだって。映し身の洞窟で友だちになったの。あそこって、綺麗な石がいっぱいでしょ?サナがそれを見てたら、すぐ隣りでこの子がじーっと見返してたんだよ!」
「宝石か。やっぱり、高いんだ」
「もー、そうじゃなくって!」
頬を膨らませるサナに、ごめんごめん、と謝る。言われてみれば確かにかわいい。しかし体の所々に見える透きとおった石の部分ばかりに目が行った。
「ねぇ、カルムは?どんな子捕まえた?」
「これといって」
「…え?」
「それより木の実がさ」
「はい?」
カルムは今夢中になっている7番道路の光景について語った。畑を任された経緯や木の実の突然変異の組み合わせについてしゃべくる姿を見ているサナの表情が徐々に曇っていく。メレシーが自分のドリンクを飲み始めている事にも気付いていなかった。
「もう少しで花が実になるんだ。そうなったら一斉に収穫だから大変だ…でもそれがやりがいでさ」
「…ノットスタイリッシュ…」
「えっ」
カルムはサナの呟いた言葉に凍りついた。どこだかのブティックで思いっきり叫ばれた言葉だった。二度といかねぇ、と誓ったのを思い出す。しかしサナはそれに構わなかった。
「まだカロスの半分も来てないのに…カルムはポケモンと友だちになりたくないの?」
何となく寂しそうに言われてさすがに気まずくなった。そんなわけないのに、とサナの周りでふわふわしているメレシーを見る。こんな様子では、ハリボーグとエリキテルしかいないなんて白状したらトロバと同じ反応をされそうだ。
フェアリータイプか…めずらしいし、捕まえてみようかな…
カルムはやっとのことで、畑を離れる決心をした。
「あ、でもそろそろ虫ポケモンが沸くな。水の具合も気になr」
「いーからさっさと行けっての!」
旅なんて各々のペースで楽しむものじゃないか。そう思いつつもカルムは結局映し身の洞窟の前へやって来た。メレシーいいなぁ、と実際思っていたし、何より旅を再開した時の手持ち二匹の喜びようが予想以上だった。
もしかしてそんなに退屈していたのかな。ハリボーグなんてよく木陰で昼寝してたから、満喫していると思ってたのに…エリキテルだって虫ポケモンの相手を積極的にしてくれたし……ふむ。やっぱ退屈だったのかもしれない。
「なんかごめん」
そう謝るとハリボーグは不思議そうに首を傾け、エリキテルはれれぃ、と言って笑った。二匹とも、あんまり気にしていなかったみたいだ。
そんな二匹を引き連れて洞窟の中へ入っていく。
洞窟というから暗くてひんやりしたイメージを持っていたが、とても綺麗な所だった。映し身という名のとおり、石壁のいたるところが大きな鏡のようになっている。高価そうな青く透きとおった石の結晶が柱のように突き出ていた。輝きの洞窟で見た石とも違うし、セキタイに並んでた石とも違う。なんだか知らないけれど、よく盗まれないな。
大量のマネネやら山男やらと出くわすも、お目当てのメレシーは全く見当たらない。
「どこら辺にいたのかきいておけばよかったな」
呟きつつ奥へ進んでいく。どこかから漏れて来た外の光が鏡の様な岩壁にあたるせいでとても明るい。しかし鏡合わせの石の道は油断してると壁と景色の見分けがつかず、カルムは幾度か「どこから来たんだっけ?」と頭をかいた。
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