ポケモン

□プロローグ
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絶大な武力を誇るこの国が、カロス全土を統一しようと火蓋を切って8年。
敵国との戦は激化の一途をたどっていた。

諜報部隊の人間から小耳に入れた話しでは、敵国はかなり高度な科学力を持ち周辺の小国と次々に手を結んでいるらしい。奴らがこの国と対等に渡り合えているのは、それが大きく起因していた。

もはや後戻りはできない程に、互いに殺し合い奪い合っていた。どちらかが滅ばない限り、この戦争が終わることはないだろう。

「それは仕方のない事だ。家族やポケモンと引き裂かれたものは星の数にも及ぶ。あの国も、我々も」

わかります。とシュネは自分の遥か上官に当たる男に言った。彼は小さく頷いて続ける。

「君は非常に優秀だ。この戦場を人の力のみで生き抜けているのは、まぎれもなくただ一人だろう…しかしこの先それが通用するとは限らない。そろそろ、彼らの力を使ってみる気はないか」

「それを戦場で使いこなすに至るには、時間がかかりすぎます。私は今までのやり方だからこそ、ここまで生き残れたのだと信じております。」

「しかし、人の力のみでポケモンを相手どるのには、限界がある。君は身をもってそれを知っているはずだが、命を落としても構わないというのか」

「かまいません」

「見事な覚悟だが…身命を賭したところで死はただの死。優秀な兵が一人失われるだけだ……それは、この国の勝利に繋がることかね?」

それまで相手をまっすぐ射抜いていたシュネの視線が、すっと下げられる。

「おこがましい台詞を吐くようだが、君の気持ちは理解できているつもりだ……私は、君のお父上と面識があった」

その言葉にとっさに平面が崩れそうになるのを、かろうじて保った。そんな部下を上官はじっと見る。

「ポケモンを信頼しろといっても、難しい話かもしれない。ましてや、戦場で命を預けるなど。強制は無論しないが…考えてみてくれ」

ポケモンは必要な武力だが、同時に生き物でもある。一朝一夕で己の戦力にとは行かない。だが実際は、己のポケモンを一から育てるような兵隊はほんの一部だけ(かくいうこの上官も、そのほんの一部に属する人物だった)。
そんな必要はないのだった。戦場へ向かわせるためのポケモンを「つくる」機関がこの国には備わっている。調教を受けたポケモンは勇猛に戦いよくいうことを聴く。兵士はそれに指示を出す。必要なのはある程度の信頼関係とチームワーク。問題はそこにあった。

普段でさえ己のポケモンを持たずにいるシュネには、それを戦場という極限状態で使役するなど不可能なのだ。

だが、彼は笑みを貼り付けてこう口を開く。
「おっしゃる通りかもしれません。人とポケモンが分かり合い手を取り合えば、どんなことでもできる…少佐たちのお姿を見ていると、そんな気がします」

上官は中級仕官にも関わらず、指揮官達から一目置かれ果ては国王や諸侯たちからもその名を知られている人物だった。ポケモン使いとして比肩する者なしと謳われ、かつて14歳という若さでこの国の精鋭部隊入りを果たしたのは有名な話だ。彼のポケモンも彼自身も、ただ強いだけではない。互いに固い絆でむすばれている。

考えさせていただきたいです、と告げる部下を、その有能な上官はどこか気遣わしげな顔でじっと見ている。他の者共のようにシュネに猜疑の目を向けたり、上辺台詞を真に受けて気分を良くしたりなどしなかった。
この男は鋭い。どういうわけか、人の心の内がよく見えているふしがある。流石は並み居る連隊をまとめる器の持ち主、ということか。自分は決して心中が顔に出る方ではないのに、見透かされているなと思う場面がたびたびあった。

彼は何か言おうと口を開いたが、途中でやめる。ただ頷くだけだった。

「では、話しは以上だ……召集までしばらくあるだろう。ゆっくり休みなさい」

シュネは礼を述べ、敬礼とともに部屋を後にした。
少佐の傍に佇むハッサムにはついに一瞥もくれず。



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