ポケモン

□かがりび
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「うわわわ!?」

ヒトカゲは、突然自分に降りそそいだオレンの皮の雨に、目を白黒させた。
場所は自分の住処にしている、放置されたニンゲンの建物だ。そろそろ友だちのリィエンが来ている筈だと思いそこへ戻ってきた矢先だった。リィエンは「ガッコウ」が終わると、いつもヒトカゲの住処へやってくる。待ち合わせ場所だ。
しかし今日は、ヒトカゲより先に到着しているようだった。「うはははは」と愉快そうな笑い声が上がる。

「遅かったな相棒!おかげでこないだのお返し、見事達成だぜ。ざまーみろ!」
「ぺっぺ!くっそ、やってくれたな!口ん中入っちゃったじゃん」

一昨日くらいにヒトカゲがくらわせたイタズラ(いつもリィエンが入ってくるドアの上にオレンの実のクズを挟んで、頭にお見舞いしてあげたのだった)の仕返しらしい。何て優しいやつだろう。

心からおかしそうに笑うリィエンの目には、さっきの親子のような怯えも怒りも、欠片もなかった。こいつは初めて会ったときからそうだ。
元々ヒトカゲはリィエンの家にある、オレンの木の畑を住処にしていた。「オマエ、だれ?」と不思議そうに訊ねてきたその顔を見て、ヒトカゲはピンと察した。
こいつ、ぼくと同じタイプだ、と。上手くいえないが、何となくそう思った。

「今日は一段とツマンなかったから学校さぼって、ここの片付けしてたんだ。どうだ、キレイになったろ?」

それから図体ばかりでかくなった友だちは、得意そうに笑いかけてそう言った。
改めて見回してみると、本当だ。ベットの藁くずは一箇所に纏められている。あちこちに散らかしてあったオレンの実の食べカスも、綺麗さっぱりなくなっていた。ヒトカゲはリィエンに笑い返して言った。

「気がきくなぁ。ありがと」
「どういたしまして」

ニンゲンにはポケモンの言葉はわからない。勿論それはリィエンも同じだったが、長い間一緒にいる分お互いの意思を汲める程にはなっている。まぁ、今くらいのやりとりに、言葉はあまり必要無いしね。

「…って、今のイタズラで台無しじゃん。ぐっちゃぐちゃだぞあそこ」
「俺って、気がきくだろ?もう散らかすなよな」
「いやだから、あそこはリィエンが散らかしてんだろー!?」
「そうかそうかー、そんなに嬉しいかぁ」

全く見当違いの解釈をして、はっはっはと満足そうに笑うアホのニンゲン。のんべだらりと座ってたヤツは立ち上がると、ふいにまじめな顔をして言った。

「あのさヒトカゲ。最近また駆除隊の奴らが、新種の道具使い出すようになったんだよ」

道具?とヒトカゲは首をかしげた。
クジョタイとは、増えすぎたり、街のどこかしこを壊して廻るようなポケモンを捕まえるニンゲン達のことだった。運が悪いと、本当に殺されてしまう。…大抵はそうなる前に逃げ出すけども。クジョタイはポケモンを捕まえるために武器になるような道具を持っているのがほとんどだった。ヒトカゲも何度か、あわやという目にあった。
リィエンは両手で小さな四角形を作って話しを続ける。

「ヤツら、こんくらいのちっこいやつを投げつけるんだ。そしたらあっというまに、ポケモンがその中に縮んで入りこんじまって…そのまま捕獲」
「へぇぇ、ホント?」
「気をつけろよ。…って言ってもお前、落ち着きなさ過ぎるからなぁ」

リィエンは無遠慮にそう呟いた。なんだよ、心配性なんだから…とヒトカゲは呆れた。リィエンはクジョタイの事になるとかなり神経質になる。自分こそじゅうぶん無鉄砲な事をやらかすクセに。
そうはいっても、今の話は本当に怖い。ヒトカゲは自分が狭苦しい場所に閉じ込められるのを想像して、ぶるりと震えた。

「うーっ!冗談じゃない!」
「駆除隊の連中、次から次にそういう道具作ってくのなぁ…なんだろね、やっぱ最近、ポケモンが多いからか?」

ニンゲンの相棒はブツブツとそう言った。ヒトカゲはそうかなぁ?と首をかしげる。別段ポケモンが多くなったとは感じないけど。

「ま、それはそれ、これはこれでだ」

リィエンは尻をはたき、カバンを肩に掛け直すとにやりと笑った。
「気をつけんのもいいけどな、相棒。今日はどこ行く?」

ヒトカゲも嬉しくなって立ち上がる。気をつけろだの何だの言っといて、そんな風に振ってくる所がこのアホニンゲンの良い所だった。
一人と一匹は建物を飛び出す。そうして、暗くなるまで好き勝手に遊び回るのだった。




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