ポケモン

□夜明けの街
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「開いた」 「開いた」 「カゲェ」 「グゥグ」

二人と二匹が同時に驚いて呟いた言葉は、扉が開いていく轟音に掻き消された。やがてガシャーンと大きな音がして、扉は開ききったまま静止した。

「ど、どういうことだ?何で知ってるんだ、お前」

「知ってたんじゃない。試したら開いたんだよ・・・ほら、さっきの―」
リィエンはコイルの夢と、ついさっき遭遇した不気味な声のことを明かした。

「それも「叫び」の力なのか・・・?いや、何かおかしいぞ」

「おれもなんとなくそう思うんだよね」

二人は下をむいて黙考する。かつて「叫び」で、リィエンは何かと会話をしたことなど一度も無かった。何時だって、光景や音や声が一方的にやってくるだけだ。それにカナヤの話では、相棒のポケモンが傍にいないと起きないという話だったはずだ。でもあの時、ヒトカゲは傍にいなかった。

「なんだか、危なっかしい感じだな・・・考えてもみろ。見張りが都合よく寝ているなんてことが普通あるか?」

具合が悪そうにうなされながら寝こけていた、見張りの男とメタモンたちを思い出す。まさかあれはラッキーだったのではなく、意図的なものだったのか。
そう考えると落ち着かない。けれど一方で、それが何になるのかが疑問だった。そんな事をする理由がどこにある。

「危なっかしいって言ったって、ここまで来たんだぞ?今さら帰れなんていうなよ」

カナヤはしばらく考え込んでいたが、やがて口を開く。
「・・・十分気をつけて行こう。ここへ来て何も無かったという事態も有得るし、反対に何が起きてもおかしくない。一つも予想が出来ないからな」

四者はなんとなく顔を見合わせると、一緒に入り口を潜り抜けた。

「明るいな」

扉よりむこうは、広い部屋になっていた。床一面がつやつやしていて、部屋の内観を鏡のようにぼんやり映していた。その床には所々四角いガラスの窓が取り付けられ、小さな照明が収まっていた。ほのかな明かりがあちこちにともっている。
まるで広い水辺の上にいるような感じのする部屋だ。目につく物はたった一つしかない。部屋の隅に巨大な機械が陣取っていた。

「これ知ってる?」
「いいや。お前さんは」
「ぜんぜん」

だよな、とお互いに確認しながら機械を眺めた。さっきの無機質な台と違いかなりごちゃごちゃしている。見るからに複雑そうな機械だった。
「停まってるのか?また技で動くのかな」
「先に電源を探そう」

人間二人は機械に寄っていくと周りを点検しはじめた。ジュプトルは機械の方へは目もくれず、隙のない面持ちで部屋の反対側を見回っている。ヒトカゲはなんとなくといった感じでジュプトルに倣っていたが、好奇心に負けたのかすぐこちらにやって来た。

「くぅくググ?」 「なんだろうなぁ、これ」

リィエンは機械の正面に目とめながら、不思議そうにしている相棒に呟いた。
機械は長い間誰にも触れられていないようで、汚れが膜の様に全体を覆っていた。リィエンが眺めていたのは、二つの大きな円形ダイヤルが並んでる箇所だった。その下に二つのスイッチがある。擦れてかなり見えにくいが、スイッチには二つとも「実行」という文字があった。
そして片方のダイヤル上部には「RAUM」、もう片方には「ZEIT」と読めない文字が並んでる。

それが何を意味しているのかチンプンカンプンだった。機械の知識なんか無い。映りの悪いテレビを叩いて直せるかどうかが関の山だ。さっきもヒトカゲがどついて動かしたのだから、これもそうならないのかな。そんな風に考えながら手を伸ばして、「RAUM」と示されている方のダイヤルを軽く回してみた。

そのとたん身体中の皮膚がピリピリと引っ張られるような、体験した事のない感覚がいきなりおとずれた。
上昇してるようにも、落下してるようにも、前後左右の水平へ高速に移動してるようにも感じる。あるいはその全部が同時に起こってるような、気味の悪い感覚だった。

「なんだ、これは?!」

機械の反対側からカナヤの驚いた声があがった。それによって、この奇妙な感覚が自分の気のせいではない事がわかった。

「も、もしかして、これのせいかも」

「何処かいじったのか」

今度はジュプトルもやって来て、全員でそのダイヤルに向き合った。リィエンはダイヤルを元の位置に回してみる。それに連動して皮膚が引っ張られるような感覚は弱まり掻き消えた。
カナヤが「ちょっとやるぞ」と前置きをしてくるりとダイヤルを回すと、再びピリピリと皮膚が悲鳴を上げる。すぐに回し直してそれを消した。どうやらこの機械はもとから動いていたようだ。




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