ポケモン

□宵闇の街
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あと5分でも早く家を出ていたら、リィエンはその知らせを全く聞かずに一日を過ごしたかもしれない。その日の朝も登校時刻が迫ってたが、「もう行くか。いや、まだ大丈夫だ」などと考えながらぐずぐずしていた。その時眺めていたテレビに見覚えのある通りが映ったのだ。それはいつもと同じになるはずだった朝を突如ひっくり返した。

冷静沈着なアナウンサーの声で知らされたのは「昨日未明、倉庫兼事務所のビルが半壊された」「目撃者の証言により、ポケモンによる被害の可能性が高い」「怪我人は軽傷者が2・3人」という内容だった。

リィエンは身を乗り出して画面を凝視した。原形と大きく異なる建物は瓦礫が散らばり、壁の一部が吹き飛ばされていた。けれどその見覚えのある通りや、周りの建物の様子から見て、自分がまさかと思ったところに間違いなかった。大穴の開いた建物は、あの一人と一匹のねぐらだった。
そうわかったとたん、慌てて家を飛び出した。


一体何事だ、あれは。あのビルを壊したのはポケモンと言ってたが、それはただのポケモンなのか。まさかジュプトルか。それともカナヤたちはついに居場所がバレて、警察が連れてきたポケモンと衝突になったのだろうか。けれどニュースでは誰かが逮捕されたとは伝えられていない。てことは、どこかに避難できているのか。

まさか、運悪くヒトカゲが居合わせてはなかっただろうか。

ヒトカゲはどうやら住処にしている廃ビルにここ最近戻っている様子だったが、たまにカナヤたちのねぐらへ居座る時もあった。それにリィエンと別れた後でカナヤやジュプトルの元へ訪れている可能性は十分ある。また明日、と言って別れた昨日ののんき顔が頭に浮かんで、リィエンは全速力で走った。

ねぐらへ辿り着くと、そこでは作業員たちが働きまわっている姿が見られた。何人か警察もいる。危ないから近寄るなという意味の囲いに阻まれて、その他の者は入れないようになっている。リィエンは野次馬の一部となって、その建物を改めて見上げた。

近くで眺めて呆然となった。上階の一部は壁が無くて中の部屋が丸見えだ。あそこにいれば到底無事とは思えない。辺りを見回すと、作業員らしい一人を見つけられた。リィエンはその人にさっと駆け寄った。

「すいません、怪我人が軽傷って、本当ですか?大怪我して運ばれた人とかいないですか」

「え?ああ、いないよ。瓦礫に転んだくらいだよ」

その人は近づいてくるリィエンを煩わしそうに無視しかけたが、話の内容を聞いて野次馬ではないと判断してくれたみたいだった。
「しかもほんの数人だ。ガラスで切ったりとかね。重体で見つかった人はゼロだ」

「でも、まだ中を調べたら出てくるんじゃ・・・」

「どうかな。この人数で夜通し中を捜索したけど、誰も何も見つからなかったよ。駆けつけたときはひどいもんだと思ったけどな・・・幸い消灯後で、中は無人だったんだ」

怖々とした表情で建物を見上げると、その人は低く呟く。

「爆発物でもないのにこんな真似ができるのはポケモンくらいだ・・・全く、おっかないよ」

「・・・・あの、じゃぁ、病院に運ばれたりとかは無しですか」

「ああ。大丈夫だよ」

「誰も逮捕とかされてないんですか。犯人というか、ポケモンというか」

「それも今の所なしだ。じゃ、悪いけど」

作業員は建物の方へ行ってしまった。取り残されたリィエンはしばらくそこに立ち尽くして考えた。
誰も見つかってない。無人だった。しかしそこが逃亡者の隠れ蓑だった事を考えれば、建物がこんな有様になったのは偶然とは思えなかった。何かあったのだ。仮に留守にしていて本当に無人だったとしても、カナヤ達はもうここへ戻ってこれないだろう。

「じゃぁ何処行ったんだ・・・」

見当もつかなかった。カナヤもジュプトルも大怪我などしていないだろうか。一体何があって今頃どうしてるのだ。もし警察とかに捕まっていたら、やはり街の外へ追い出されるのだろうか。もしかしたらそれが嫌で、そいつらに対する「強行手段」をとったのかもしれない。その結果が、これなのかも。
何にせよ、そこにヒトカゲがいるのかいないのか確かめたかった。でも、何処にいけばいい。

「落ち着け・・・落ち着こう」
リィエンはブツブツ言いながらそこから離れた。
「大体、一緒にいるとは限らない。自分家で寝てるかも知れんし・・・」

リィエンとヒトカゲは基本的に放課後に会っていたので、その時間まで普段ヒトカゲが何をしているのかはわからなかった。今はまだ朝で、いつも落ち合う時間は夕方だからまだまだある。待ち合わせ場所とは違う所にいてもおかしくない。というより、十中八九いない。朝から夕方まで同じ所にじっと待っていられるような奴じゃない。思いつくのは節電区域の廃ビルだけど、そこにいるとも限らない。

でもきっと大丈夫だ。だんだん本当に落ち着いてきたリィエンは半ば自分に言い聞かせた。小さい頃のポケモン駆除業者だとか何だでこちらが死ぬほど心配してた時、決まってヒトカゲはいたくあっさりと現れたじゃないか。



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