ポケモン

□まどろむ街
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 次の日。リィエンは両親や友人といったいろんな人に、一つの質問を繰り返してみた。
 するとみんなは、面白いくらい同様の反応をして見せた。

「いきなりどうした・・・大丈夫か?」
「何の話なの?それよりあなた、また学校抜け出したでしょう!いい加減にしなさい!」
「え・・・頭打った?もっかい打って、治してやろうか?」
「あー、わかった。またデンパきたんでしょ?ん、エスパーだっけ?」

 そしてやっぱり、似たり寄ったりな返答をするのだった。

「時計塔にでもあるんじゃないのか?」
「時計塔じゃない?・・・行くんなら学校終わってからにしなさいよ。言っておくけど今日も夕御飯抜きだからね!」
「歯車っつたら、機械じゃねぇ?あー、時計とかそれっぽいな」
「エスパーじゃなくて歯車?はがねタイプってこと?」



*    *    *




 時計塔があるのはこの街の中央、最も賑やかな所だ。様々な店や施設が軒を連ね、始終人でごった返してる。時計塔自体も、そんなレジャー街の一部であったりする。一階にカフェがあったり、上には展望台があったり。
 歯車で真っ先に思いついたのがここだった。それはリィエンだけでなく、両親や学校連中といった周囲の者もそうらしい。なので、きちんと学校を終えたリィエンは時計塔のまん前へとやってきていた。教師と母親を怒らせた後で、さすがに昨日に引き続き無断早退を繰り返せなかった。

 小さな頃学校の校外授業で、リィエンは一度時計塔の内部へ行った事があった。一般には公開されていない、裏方の見学だった。退屈な学校から出て遠足気分だったのはよく覚えている。
 だがあの中に何かが隠されているかどうかも、当時説明を受け持った管理人らしき人が誰かも全然知らない。あの頃はいっさい興味無しだったので、注意して見る気も耳を傾ける気も起きなかった。こんな事ならほんの少しでもまじめに見学してれば良かった。仕方ないけど。

 リィエンは一人時計塔の中に入る。チッポケあやふやな記憶をたぐり、内部の入り口を探した。一階をうろついてると、「立入禁止」のプレートが下がったそれらしいドアを見つける。
 おまけにすぐ隣りは塔の関係者の事務所兼案内所になっているようだ。半分ガラス張りになった中からは、一階が見渡せるようになっていた。勿論、立入禁止のドアの前でつっ立ってるリィエンの事も丸見えである。

「こんにちは。どうかしましたか」

 まるで守衛室のようなその部屋から、さっそく男が一人やってきて言った。少し神経質そうで、でもどこかキリリとしている。仕事ができそうな顔だな、と思った。

「こんちわ。ええっと、実は学校の自由課題でここを調べる事にしたんだけど・・・」

 リィエンはここに来るまでに適当に考えていた口実を使ってみた。「宿題」「課題」というだけで大抵の行事に大人は納得するのだ、というのを両親で実証していた。果たして、赤の他人ではどうなるか。

「どうせなら構造とか、見てみたかったんですけど・・・見学ってできます?」

「いいや。申し訳ないが、ここは見ての通り一般の人は立ち入り禁止なんだ」

 やはりというか、現実は甘くないようだ。リィエンはとっさに「あ・・・なら、いいや・・・」とこだわらずに退いた。ここでまごまご困って見せ、変な奴、と怪しまれるのはごめんだった。
 さりげない素振りになるよう注意しながら、訊ねる。

「昔、学校の授業で中に入った事あるんだけど・・・今はだめなんですね」

「ええ。今は何かと物騒なので・・・勿論、展望台へは自由だし、時計塔の構造や生い立ちくらい学校の図書室にもあるはずだよ。せっかく来てもらって、悪いけど」

 物騒だと封鎖するような所だろうか。内心首をかしげながら、礼を言って退散しようとしたリィエンに、言葉がかけられた。

「それにしても、前に来たことがあるのにもう一度見学したいだなんて。熱心だね」

 振り向くと男は笑顔でそう言っていた。気のせいか、口元だけの笑顔で目が神経質なままに見える。ほんの少し、背筋が冷えた。

「勉強、がんばれ。ところでどこの学校なのか教えてもらってもいいかい?」

 どうやら自分は現実を甘く見るどころか、なめくさっていたようだ。そりゃ、親に通用するからって、聡そうな別の大人に当てはめて良い筈なかった。情けない教訓だ。



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