ポケモン

□最後の街
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 まだなにやら喋りかけているカナヤとジュプトルを眺めて、リィエンはヒトカゲに話しかけた。

「あのオッサン、お前から地図を貰ったって言ってたけど、本当か?」

 ヒトカゲは頭上で力強く頷いた。よどみの無い動作に、そうか、とリィエンも頷いた。

「気に入ったって事か」

 かぎゃ、と相棒は笑う。それでリィエンも、肩の力を抜くことにした。

 ふと視界の隅で何かが動いた気がした。目を凝らして見ると何も無いと思ってた空間に、見覚えのある丸いフォルムが浮かんでる。
 コイルだった。

 さっき会ったのと同じやつだろうか。だがさっきのような耳鳴りもしない。コイルたちの判別など、不可能だった。全部同じに見えてしまう。
 そいつは乱雑する建物にまぎれるように漂っていた。メタリックなひとつ目には、やはり表情も何も無い。何がしたいのやら、ただ遠くからこちらをじっと見てる。

「なんだ、あいつ」

 思わず呟くと、ヒトカゲもそっちを向いた。そして、人の頭に登ったままで(おい、ちょっと重くなってきたぞ・・・)再び鳴きはじめる。

「どうした?」

「いや、コイルが・・・」

 訝しげなカナヤにそう答えてコイルを示すと、
「おぉ、あんな遠くから。シャイなのか?」
とマヌケな事をぬかす。
 リィエンはのんきに手を振っているヒトカゲと、静止してるコイルを見比べた。相棒は嬉しげな声だ。警戒している素振りも無い。

「知ってるのか?」

 首をのけぞらせてヒトカゲにたずねると、またもやイエスの相づち。リィエンはちょっと驚いた。こいつ、本当に顔の広い奴だな。それともさっき知り合ったのだろうか。ヒトカゲの並ならぬ好奇心を考えると、そっちの線が強力だ。ついさっき、カナヤに「フレンドリー」と称されていたし。

「ひょっとして、こいつらを案内してくれたんじゃないか?」

 朗らかに言ってみせるカナヤを振り返る。

「案内って?」

「だからさ。ジュプトルたちが早く来れたのも、あのコイルが道案内かなんかしてくれたからじゃないのかな。ポケモン同士なら尋ね人なんぞ、簡単な話だろうよ。人と違って」

「そうなの?」

「だって、違法なんぞいって一方的に取り締まってるのは、人間様だけなんだろう?ポケモンがそんなややこしい物つくるもんか。こいつらなら、人間よりずっと自由に会話ができて――だから、通りすがりのコイルくんに事情を話すのもへっちゃらなんだろ」

 なんとなく、話の意味がわかってきた。
「・・・あんたはそれを人間相手にやって、追い回されてるってわけだ」

「左様」

 確かにな、とリィエンはうっすら納得した。ポケモンってある意味、人よりずっと縦横無尽だ。
 人の言葉を理解できる分、人間同士よりポケモン同士のほうがいち早く事情を分かり合えるのかもしれない。

 ところが今は、ヒト二人にポケモン二匹が一同に介してる・・・昼日中の街角で、これはよろしくなかった。誰かに見られれば、アウトじゃないか?こんな光景。

「おっさん、何時までもここに居ちゃまずいぞ」

「ん?おぉ、そうだな。では、とっととねぐらに戻るか。ぼうずとヒトカゲも来てくれるか?」

 かげかげ、と迷わず頷くヒトカゲ。そういえば、話を訊きたいとか言っていたな。街を調査なんかして、どうするのだろう。というか、わざわざ調べるようなものがこの街にあるのか。

 もう一度路地を見やると、まだそこにコイルはいた。

「・・・」

 リィエンはなんとなく、ヒトカゲと一緒になってそいつに手を振った。


*    *    *



 奇妙な一行と化した二人と二匹は、その場を後にした。

 ポケモンたちは建物の上だとか路地の隅を器用に駆け回った。上手い具合に一定の距離を置いて、人間二人と同じ方向へ移動している。
 とりあえず、一見すれば大人と子どもが連れ立って歩いてるようにしか見えない、と思う。時々忍び笑いや小さな鳴き声が聞こえるけど。

「そういや、ぼうずの名前は?」

 今思いついたのか、カナヤが訊ねてきた。その物のついでのような訊き方に少々引っかかりながらも、「リィエンだよ」答える。そうして、あらかじめ釘を刺すように言う。

「ききたい事なんていうけどさ・・・おれ正直、もの知らないよ?」 

「そんなら、知ってる範囲でかまわんさ・・・」
カナヤはそう返して、ふと首をひねる。

「いや。しかし・・・どこまで知らないんだ?・・・えーっと、リィエンは街の外には出た事あるか?」

「断じて無い」
 そこは普通の人には無縁。犯罪者だけが行かされる様な場所なのだ、と説明してやると、カナヤは苦笑した。

「それで俺たちのことも、あんなに怪しまれたのか・・・じゃ、この街の人間は街の外がどんな状態なのか、見る事は無いのか?」

「そうそう無いでしょ・・・どんなとこなの?」

 荒れ果てて何も無いところ、と言う知識しか、リィエンにはなかった。今考えると、そんなのはうまく想像すらできない。

「何も無いところさ」
カナヤはじっと、どこか遠くを見すえながらそう言った。やっぱり。


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