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□序盤戦
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「のびのび、なんてさっき言ったけどな、実はみんなは、この広い会場をずっと貸しきれるわけじゃぁ無いんだな。プログラム開始から二時間おきに、会場内の一定のスペースが立ち入り禁止になります。それが『禁止エリア』だ!」
 父屋は赤い網目の左縦にA〜G,上横に1〜8を記入していく。それは簡素なマス目になった。
 「禁止エリアは二時間に一つずつ増えていって、以降はプログラム終了までずっと入れない。時間がたつにつれて、使えなくなる廊下や階段が出てくるだろうから、よくよく考えて移動しなきゃだめだぞ。ちなみにエリアはコンピューターがランダムに決めるもので、これといった予測は立てられない。禁止エリアに指定されてから、そこに一歩でも入ればどうなるかというと・・・」
父屋は朗らかに笑って、自分の首元を指差して見せた。「さぁさぁみんな、ちょっと自分の首を触ってごらん」

 いきなり突拍子もなくそう言われて目を泳がせた時、智見はそれを見つけてぎょっとした。数列前の、偶然目が合った圭太の首に、黒く光る輪がかかっている。その見慣れぬ異様なものは、圭太だけではなく見渡すクラスメイト全員の首にあった。おそるおそる、自分の首に手をやると、ひどく冷たい金属の感触が返ってきた。
焦りと驚きで声を上げる者や、せわしなく四方を見回す者とで教室の中が色めき立った。どうやらそろいもそろって全員が、同じ首輪をつけられているようだ。全く気がつかなかった。何か変だな、とは思っていたけど、あまりに何もかもが変なせいでわからなかったのかもしれない。

 「あー、だめだめ。無理に外そうとしたら、首吹っ飛んじゃうよ」
 ざわめきはじめていた部屋が、水を打ったように静まる。
 「そいつの名前はカダルカナル22号。我が国の誇る超一流の科学技術が生み出した、超高性・超多機能の小型爆弾でーす。いやもうね、すごいんだよこれが。衝撃耐性あり!防水性あり!発信機能ありでみんながどこにいるかも一目でわかっちゃう。
わかっちゃうもんだから、もしこの首輪が禁止エリアの中に入ればコンピューターがそれを察知して、自動で起爆します。さっき言った時間切れになっても、勝手に起爆します。何かズルイ事をたくらむ人にも、ズバッと起爆します。勿論、死んじゃうから気をつけような」

すっと血の気が失せるのを感じた。ゆっくり「それ」から手を放す。心の中の真っ赤な怒りが、またじわりと増えていく。

「さてさてさて、その大変重要な禁止エリアだけど、みんなが随時追加されるこれを知る唯一の機会が、一日4回の定時放送です。流す時刻は決まっていて、夜中の0時と朝の6時、昼の12時と夕方の18時。前回の放送から次回の放送までの間に死んだ生徒の名前と、そのさき6時間で追加される3つの禁止エリアを発表するから、ちゃんと聞くようにな。うっかり寝過ごしたりして聞きそびれるなよー。知らないうちに禁止エリアに入ってボカン!・・・なーんて情けないからな」

 ふーっ、と言葉をきって一息つく父屋を、智見は今や睨みつけていた。
 外へ逃げ出せば殺され、じっとし続けていても死ぬことになる。こんなルールでは嫌でも、殺戮を起こすしかなくなる。というより、うまいこと促すためのものなのは明らかだった。
 いい大人が寄ってたかって下準備に明け暮れる様を思い浮かべる。なんて馬鹿らしい。こんな手間のかかることをしてまで子供を殺す理由がどこにある。そんなにやりたきゃ、自分たちでやればいいのに。

 「んー、ここまでざっと説明してきたけど、みんな頭に入ってるかぁ?チョット小テストでもするかー。ふーーーーーむ・・・・・はいっ!じゃそこ。坂内!」

 智見のずっと左後ろで、がたっと音がした。教室内の視線すべてが、坂内邦聖(男子9番)へ注がれる。均整の取れた顔は、今は恐怖で目を見開き固まっている。握ったこぶしを両膝の上に置いたまま、呆けたように父屋を見ていた。声も出ない、という様子だ。

 「おさらいだぞっ。質問、じゃかじゃん!プログラムでは、死亡者がでてからどれくらいの間なら、次の死亡者が出なくても許されるでしょうか?」
 はいっ、大きな声で!と父屋はのたまう。しかし邦聖は、ショックから立ち直れていないのか、返事をしなかった。石像のようで身動きすらしない。
 「あらら〜?・・・次、じゃかじゃん!禁止エリアは、何時間ごとに追加されますか?」
 痛いほどの静寂が落ちる。ようやく自身の状況を把握できた様子で、邦聖は可哀そうなほどうろたえていた。恐怖で歪んだままの表情で、ただ首を振っている。
 「はい、ラストです、坂内。じゃかじゃん!一日4回の定時放送。流されるのはそれぞれ何時でしょうか?」
 返事はなかった。わからないとも、答えるのを拒絶しているともとれる動作だった。だが、智見の見る限り、パニック状態でそれどころではない、という風に感じた。


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