OBR

□最後の日常
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3のBは平和なクラスだ。大きなグループが一つきりだからだ。男女混同のはつらつグループ。部活が一緒だか、小学校が一緒だかして、大人数で仲がよく、かつフレンドリーなので誰とも敵対などしてない。ハブも差別もなし。来るもの拒まず、去る者追わず。
もしかして、グループなどではないのか。でも準には、智見、優紀、亜美、樹弘は同じ明るいオーラをまとってるように見える。正和は、正直微妙。

そのありがたいグループに属しているもう4人は、別のお土産をのぞいていた。
こちらにも移ってしまうような明るい笑い声が特徴の南小夜(女子17番)と成績トップの渡辺凪(女子21番)は少し離れたぬいぐるみコーナーで談笑している。微笑ましい。
そして、比較的冷めた印象の石黒隆宏(男子2番)と、どこか抜けてるのに女子からの人気が高い菅野優也(男子8番)はなぜか惣菜コーナーにいる。おしんこ片手に何やらしゃべる優也と、黙ってきいてる隆宏。ちょっと理解不能。
この面子に一人、委員長が加わって、はつらつグループはなりたっていた。

彼らの学生生活は、ほぼ理想ではないだろうか。試験前には嘆きあいながらも一緒に勉強したり、部活の挫折で泣いたりしている。学校行事にはえらい熱くて真面目だし、今も、教室でも心から楽しそうによく笑う。去年の文化祭なんかも、こいつらが中心にクラスの出し物を運営してた気がする(ほめすぎ?まぁ、傍から見ただけの印象だ。実際何もなくはないんだろう。きっと)。

イエローボイス合唱団が、キューピーの前で何か喚いていた。誰がどれを買うかでもめているようだ。「わかった!間をとって、みんなまりもっこりな!」と樹弘がいい、全員からすごい攻撃にあっている。
準は心の中で肩をすくめて、視線を外した。

外した先には、おなじみの熊ステッカー。そこにはまた一つの集団が、少々むさ苦しく集っている。
「おめー、こん時くらい筋肉のこと考えるのやめろやー」
黄色い声の代わりがこれだ。準はそこにいる顔ぶれが一瞬でわかった。
熊出没注意のステッカーを前に笑い声をあげてるのは、スポーツマンらしい体格の茂松司(男子10番)に、彼いわく常に筋肉の事を考えてるらしい日笠進一(男子14番)、爽やかイケメンスポーツマンの坂内邦聖(男子9番)、四人の所属するテニス部主将、町田耕大(男子17番)だった。

彼らは部活のために学校に来ているようなもので(これは推測ではなく、本人たちの公言だ。勿論、教師のいない所での)、中体連間際など、ピリピリしすぎて恐ろしいものだった。
チームワークの良さは、この四人にとってはそのまま仲の良さになっているようだ。スポーツという勝ち負けの世界に魅せられた奴らの連帯感なのだろうか。何の部活にも入らず、これといった親友もいない準にとって少しだけうらやましく思える。でも筋肉はいいや。

どやどやと活気のあるお土産やを通り過ぎて少し、ぽつんと一人壁にもたれるクラスメイトがいた。
江口修二(男子4番)は辺り(ましてやお土産)になど目もくれず、ケータイをいじっていた。ここにも、準の他に「グループ」とか「仲間」に縁がないやつがひとり。話しかければちゃんと答えるし、それなりに冗談を言ったりするが、人付き合いに消極的なところがある気がする。
ふとケータイから顔をあげた修二と眼が合った。一瞬睨むように見返したあと、ぱたんとケータイを閉じて去っていく。どうも、修二のまわりだけ、気温が2・3度低い感じがする。妙な雰囲気のやつだ。

気を取り直して進む。ラーメン屋や大浴場ののれん、ゲームコーナーなどをしり目に歩くと、ほどなくして突き当りに到着した。こじゃれた水掘りとそれにかかる朱塗りの橋。その先には、ふすまでぴったり閉じられたお座敷があった。

すぐ目についたのは、水掘りのふちにしゃがみこんでいる雪平花(女子19番)と、こちらは腰に手を当てている月本淳子(女子8番)だった。
「まってろよぉ。いまおじさんが夕飯つってやるからな」
「釣れるかってーの。ああもう、やめなさい」
水掘りには鯉でもいるのだろう。変わり者の花は何やら糸的なものを垂らして熱心に水面をのぞきこんでいた。淳子はそんな花の頭をはたいていさめてた。漫才コンビのようだ。

二人から離れた壁側。ガラス張りの向こうに中庭がのぞける休憩スペースがまたあったが、すでに女子のおとなしいグループがついていた。
いくよー、とケータイのカメラ片手に声をかけてる佐藤千夏(女子5番)。中庭をバックに並んで固まってるのは紺野美香(女子4番)、堀川やよい(女子14番)、美島恵(女子16番)だった。4人ともおっとりとしていて、クラスでは目立つまいとしているタイプだ。



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