ポケモン

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「伝説のポケモン、レシラム……ボクは英雄となりキミとトモダチに」

声の主にトウコは見覚えがあった。カラクサで出会った奇妙な青年だ。
青年はカラクサの時と同様の平坦な早口で、怪しい独り言を喋っていた。うわぁ…、と思っていたトウコだが、彼が独り言の途中でテラスにいる自分たちに気がついたのを見て、「うわぁ…」を口に出してしまった。

「キミ達には、以前会っているね。今のを聞いていたのかい?」
「聞いてしまいましたよ…」

聞こえてきたんだからしょうがない。
トウコは座ったまま、ゆっくりと歩いてくる青年と向き直った。ミジュマルはぎこちない面持ちをしながらも手を振った。チョロネコと取っ組み合った記憶はまだ新しい。ミネズミは両頬をパンパンに膨らませつつ、いつもの目つきで青年を凝視する。

「あなた、Nだったよね?…なにブツブツ言ってたの?怪しいよ?」
「知りたいかね」
「……あっ…いいや」
「ボクは誰にも見えないものが見たいんだ」
「うわわ、いいですっもう結構です」

怪しい話に引きずり込まれるのを警戒したトウコは、慌ててNを遮ろうとする。しかしNは全くお構い無しで喋り続けてしまった。

「ボールの中のポケモンたちの理想…トレーナーというあり方の真実…そしてポケモンが完全となった未来」
「……」
「キミも見たいだろう?」

何よ、このもじゃもじゃ。全く意味がわからない…!

わからないのに、その言葉がどういう訳か不安を駆り立てた。
条件反射的に苛立ちと反感がつのったトウコは、Nの顔を睨んだ。前にも思ったけど、本当に嫌な目をしている。暗くて、底がないような。

ごっくん。と飲み込んで頬を元に戻したミネズミが、突然Nに喋りかけた。気安げな声色で、ギュワギュワと鳴いている。

「……落ち込んでいる?ふぅん。どうしてまた?」
「ギュギュオ、ギュ?ギュワワワギュワッ」
「……そうか」
「みっじゅ!ミジュンゴー」
「やっぱりね」

ミジュマルまでもが加わって、一人と二匹は鳴き声と単語を交し合う。トウコはそれを見やって、とある直感をおぼえた。
まさかとは思うけど、こいつら会話しているの?
ミジュマルとミネズミがお喋りをするのは分かる。でも、Nまでもがポケモンと同じように言葉を通じ合わせるなんて。

「ボクが推察するに彼女は勝負に負けたからではなく、キミたちを傷つけてしまったから落ち込んでいるのだと思うけどな」

トウコは言葉も無く、驚いて口がポカンと開いた。
Nの早口を聞いた二匹はつままれたような表情でNを見、次いでトウコをふり仰ぐ。

「ミジュジュ」
「ギュウグワ」

二匹はトウコへ問いかけるように鳴いた。

「な、なに…?」
「今ボクが言ったことは本当か、とキミに訊ねているよ。…このコたちは、キミが二匹のシママに負けたので落ち込んでいる、だからあまり変な事を言って困らせるな、とボクに言ったんだ」
「そんな…アンタたち、こいつと喋ってたの?」

恐る恐る訊ねると、二匹は大きく頷いて見せた。それが確信になった。

「キミたちは不思議だ」

平坦な口調で、Nはそう言った。トウコは絶句状態から思わず回復して、言い返した。

「あんた程じゃないわよ!」
「キミはこのコたちの心を見ていない。このコたちの思いは置き去りで勝手に落ち込んでいるのだ」

―何よ…何よ!このもじゃもじゃ電波男!

トウコはぎゅっと拳を握った。同時に脳裏によぎったのは、あのプラズマ団のことだった。なぜならトウコも、彼らに対して同じことを思っていたのだ。

ポケモンの為という頑なな信念を持ちながら、ポケモン自体のことは置き去り。勝手に「解放」とか「救う」とか主張しているものの、肝心なポケモンの意向は無い。そんな印象を持っていた。
それと自分がおんなじだ。そう言われた気がした。

「こんなにも分かり合えていないのに……これほど思い合っている」

キミたちは不思議だ。
そう繰り返しながら、Nは街の外へ歩き去った。

現実に戻ってきたかのように、アコーディオンの音色が辺りに流れ込んだ。






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