DASH
□はくす
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地球帰還後。フラッター号にて、、、
「ロック、ごめんね!フラッター号の防火修築に経費がかかって……」
朝の食卓という平和な空気の中、その予期せぬ爆弾は無情に投下された。ロックは口元に運びかけた目玉焼きを、ぽとりと皿の上に落っことす。
「ロックの装備、全部売っちゃった!」
「またか〜」
「まただよ…」
フラッター号の甲板で、ロックとデータが物憂げな調子で話し合いをしていた。
よく晴れわたった空の下で、ロックは洗濯物を干している最中だった。青い大海原に照りつける日光は、わけ隔てなくフラッター号全体にも降りそそいでいる。爽やかな光景だが、衣服を干していくロックの表情は暗鬱としていた。
一度ならず二度までも勃発した幼馴染の暴挙に、ロックは朝っぱらから悲鳴をあげた。気がつくと忽然と消え失せていたのは、装備だけではない。バスター強化のパーツも、より取り見取りだった特殊武器も、ロールは全てゼニーに変えてしまったのだ。
それら全てを作り出したのは彼女なのだから、また作ってもらうことは可能だし、頼めば喜んで承諾してくれるに違いない。
だがしかし。
「一つも残ってないよ。シャイニングレーザーなんてさ、あんなに頑張ってやっとあそこまで強化したのに…」
「つらいね〜」
武器も装備もタダでできるわけではない。資金を調達するためロックはどれほど遺跡中を駆けずり回った事か。その勢いは、ヘブンに沸いて出るリーバードを根こそぎ粉微塵にしたんじゃないかと思うほどだ。
今となっては、それらの労力も同様に粉微塵となって消えてしまったというわけだ。
「悔しいけど、またコツコツはじめてくしかないよね…」
「ふーん。泣き寝入りするの?」
「え、だって。しょうがないだろ」
「ヘタレだなぁ〜。たまには雄雄しくビシッ!と言ってみたら?ビシィィッ!と」
「………ビシッと?…」
そんな権限あったっけ……いやいや、あるでしょ普通に!
ロックは一人ボケツッコミを頭の中で繰り広げる。
「それとも何か〜?口では何にも言えないから、後でロールちゃんの着替えを覗いたり、お風呂覗いたりするの?そんなのせこいぞ、スケベだぞ〜!」
「そそそsssんなひどい事、するわけないだろ!」
「えっらい慌てようだなぁ。前科あるくせに。どっちもしっかりやってるじゃんか、キミは」
「だったらデータだって火事起こした前科があるじゃんか!ボクの装備が消えたの、防火工事の費用でなんだぞ!」
キーキー!ワーワー!と言い争う彼らの頭上を、カモメがゆったりと飛び去っていった。
数分後、疲れきった様子で甲板から降りたロックは、トボトボと居間の方へ向かっていた。洗濯カゴを抱えて歩いてると、問題の人物がニッコリ笑ってロックを迎えていた。
「あっ、ロック終わった?」
「ウン、全部干し終わったよ」
「お疲れ様。ありがとうね!」
ウン、ともう一度頷いて、ロックはロールの笑顔を見つめ返す。先ほどのデータとの会話を思い出す。
(ビシッと……ビシッとか。よ、よし…)
ロックは意を決して口を開く。しかしそれと一緒に、ロールも声をかけていた。
「あっと……ロック、これ!」
「え?うわわ!?」
両手の洗濯カゴが、突如ズシンと重さを増した。危うく取り落としそうになったその中を覗き込む。カゴに似合わぬ無骨な物がロールによってそこに納められていた。
「これって、ホーミングミサイルじゃ…」
「そう。良かったら使って?」
「どうしたの、これ」
「新しく作ったんだよ。前のは、売っちゃったけど」
その通りだった。手放した特殊武器のホーミングは数回強化を重ね、目の前のやつより一回りは大きかった筈だ。でもこれは小さい。
「前のとは色々変えているから、使い方が少しだけ違うよ。注意してね。あと、コストに限界があって……これより性能を上げることもできるんだけど、その……」
「お金がかかるんだ」
「ハイ」
でもね!とロールはこぶしを握って続ける。
「前回作ったのより、頑丈で使いやすくなってるはずだよ!ロックが使ってたやつはもう、みんな私が売っちゃったけど……次はもっとずっと上をいく物を!作って見せるから!」
「…うん。そっか」
次はより上のものを。ロールらしい言葉に、何となくロックは笑顔を返した。
その様子を廊下の角から眺めるサルが一匹。データはロックのヘラヘラした顔を見るや、
「ウキィ…だ〜めだこりゃ」
と呟いた。
おわり ありがどうございました!