s o n o t a
□カービィ
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あの日、あの時。
星空をぼーっと眺めていた自分の足元に、眩しい光が落ちてきた。
流れ星だ、家に飾ろう!そう喜んで拾ったそれは、思っていたのとちょっと違ったものだった。
せっかく飾ろうと思ったのに、できなかった。地面から拾い上げた瞬間、それは自分の一部になって、離れなくなってしまったからだ。
「メタナイト様、後はたのんます!」
「ダメなわしらはお先に失礼するダス〜!」
ボロボロにひしゃげた戦艦の中。メタナイトの仲間たちが、うわーん、と悔し泣きしながら去っていく。
「よしっ、こっちも逃げよ」
きぃん、と能力が解除されて、ナノマシンが元の姿に形を変えた。それは「コピーの力」。あらゆる能力を取り込み自在に操る事ができる、不思議な力だった。
その能力ごとにナノマシンは様々なものに形を変えた。ある時は氷の力を、あるときは炎の力を。ある時は空を飛ぶ翼に、ある時は両刃のつるぎに。今それは、この艦を脱出する一台のバイクへと様変わりを果たした。
単身で、この戦艦をたたきのめせる力だった。
―アイツには悪いけど、あきれるほど平和なこの星に、制圧なんて物騒な響きは似合わない。…だってアイツが支配なんかしたら、かなり堅苦しいところになっちゃいそうだもんな。
「この星は平和すぎる。いつどんな脅威が来て、その平和が失われるか、分かったものではない」
そうは思わないか。いつだったか、彼女は一度だけそんな事を零していた。
「思わんなぁ」と嘘偽りない意見を返すと、特に非難するでもなく、「やはりそうか」とつぶやいた。予想通りでガッカリ。そんな気色で。
「きょういって何?よくわかんないけど、大丈夫じゃないかな。みんな最高にお気楽で怠け者で好き勝手なんだから。何がきても、どうせ変わらないよ」
「だからこそ、この星に目をつける者どもが出てくる」
「うーん、じゃぁそういうのは、自称・王さまに任しちゃえば?」
「頼りなさすぎる」
「わがままだなぁ!」
エラそうでお間抜けだけど、皆が面倒がってやらない厄介ごと(王さまなんて、他に誰もやりたがらない)を買って出るようなヤツだから、あいつで十分じゃないか。それなりに強いし。
そんな風に思う自分を、彼女は厳しい顔つきで睨んだ。
「ここが変わらず平和であり続けるには、このままではいけない。だが周りの連中は余りにだらけきって、それを直そうともしない」
「だから平和なんでしょ」
「余所者が悪さをしてこの国が消えても、そんな事を言ってられるのか?そうなってからでは遅いのに」
「…そんなヤツ、本当に来るのかなぁ?」
「そう思うなら何故、お前は飽きもせず、こうして剣の稽古にくるのだ?」
何故って。答えようとして、少し考え込んでしまった。
楽しいから。剣を振り回したり、彼女とこうしてお喋りする時間が好きだから。というのもある。それに、自分には何一つ取り柄がなかった。炎の力なんて使えないし、空を飛ぶこともできない。彼女のように剣の達人にもなれないし、デデデのような怪力バカでもない。
ファイアでもアイスでも、ジェットでもファイターでもソードでもハンマーでも、何でもいい。なにか一つ、自分の取り柄があればいいのにな。そう思っていた。
でも、何でそんな風に思うんだろう?呆れるほど平和なこの国で、何のために?
「お前だって本当は、この星を守れる力が欲しいから、ここにいるのではないのか?」
え?そうだったのか。
思わず目を丸くして、彼女の方を見返した。自分でも気づかなかった。あんまりちゃんと、考えたことがなかった。でも言われてみれば、やっぱそういうことなんだな。うんうん、と何度も頷く。
「なんだ…もしかして、違ったのか?」
「ううん、そうみたい!キミがそういうから、今気づいたよ。キミはすごいなぁ!」
「いま気づいたって、お前…」
「よーし、やる気がみなぎって来たぁー!もういっちょ、稽古はじめようよ!」
「帰れ」
どういうわけかもの凄く不機嫌になってしまった彼女に、その日は追い出された。仕方なく空を見上げて帰りながら、少しだけこの星について思いを巡らせる。
零れ落ちそうな星たちに、その日から、願いを込めるようになった。
どうか、悪いやつらがやって来ませんように。
どうか、この星が平和でい続けられますように。
いつまでも変わらずぐうたらできるこの国を、大好きなこの星を、悪いやつらから守れますように。
そうしてあの日、あの時。
星空をぼーっと眺めていた自分の足元に、「コピーの力」は落ちてきたのだった。
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