DASH

□昔のはなし 3
4ページ/7ページ









「しっかりやるのだな。後ほど件のイレギュラーと接触した粛清官のメモリーデータを送らせるから、確認しろ。イレギュラーだけでなく、やつらが持ち込んだ菱形体も直接確認している」

「うぇっ?その粛清官、大丈夫?」

「自分からラボへ向かった位だからな。大丈夫ではなくとも、責任もって処理する」

「そぉ・・・」

両者は同時に口を閉ざした。そのちょっとした間の沈黙に、それぞれの思案をのせる。ふぅむ、と息を吐いて、ユーナが先に口火をきった。

「ねー、セラちゃん。こうなるとさ、あたしが前にも言ってたこと、やっぱり気になってこない?」

何のことかわからず黙っていると、ユーナは気にした風もなく続けて述べる。

「忘れちゃった?ほら、地球のことわざ・・・・鳶が鷹を生む!」

あぁ。とセラは呟いて、ずっと以前にユーナが提唱していた事柄の記憶を呼び起こした。


「強さによる階級判別の不正確さ」
それが、ユーナがやけに積極的に主張したことがらだった。

システムではどの施設においても、階級が全職員の行動を制御していた。階級によってその者が持つ権限は違うし、行動範囲も違う。

例えば施設において。正常に施設が作動している間は、特定の部屋に入れる者と入れない者は、自動的に判別される。
しかし緊急事態などで施設が機能しなくなった場合、同時に階級の分け隔てはなくなってしまう事になる。誰もがどの部屋にも入れ、どの権限をも持つ。そうなればシステムの流れは、とたんに崩壊してしまう。

それを防ぐのが、階級による「強さ」の設定だった。
勿論これは緊急時のみに行使する事になる「裏ワザ」だった。高い階級の職員は、それなりの能力を持って生み出され、低い階級の職員は決してそれ以上の能力を持たされない。要は、階級の高い者はいざと言う時、低い者をねじ伏せられるようになっているのだ。そうして最低限の秩序は守れるようになされていた。

しかしそれは非効率かつ不正確だ、と言うのがユーナの主張だった。

「ことわざにあるじゃない。鳶が鷹を生むってさ。結局こういうのって、第三者が管理したり、設定したりなんてできる性質のものでないのよ」

「三等」に指定され生み出されたものは、その階級分の能力しか持っていない。なので彼らがそれより上のエリアに入ると当然、力及ばず破壊されてしまう。
しかしその個体が、何らかのイレギュラーを起こし「二等」あるいわ「一等」と同等の能力を持ってしまったら。すなわちそれは、「二等」「一等」しか持ちえない権限を無条件に譲渡してしまうという事だ。

「危険だと思わない?地球って凄いのよ〜?さすが生命の宿った星。みんな良く育つんだから〜・・・まぁ、あたしたちはそれをイレギュラーって呼んじゃうワケだけどね」


おもいだした?と訊ねてくる顔はひょうきんなものだった。しかし同じ意見を口に出す所を見ると、彼女がこれに少なからず真剣なのが窺える。

「件のイレギュラーは、自分より階級の上の職員の船体を奪ってここへ来たのよね?理屈で言えば、イレギュラーはその段階で処理されているはず・・・・でも、彼らはヘブンにたどり着いた」

そうだな。とセラは頷く。

「あたしだって地球のマザーだもの。やるべき事はやるわ。だからこれは、言い訳じゃないくって提案」

ユーナがその先を続ける前に、セラは以前と同じ返答をくりかえし告げた。

「論外だ」

「あーらら、バッサリねーセラちゃんってば」

「我々の役割りはシステムの改変ではない。人類が再生するその日まで、これを永続させる事。システムのあり方がこうである以上、我々はただそれを正しく運営していかなければならない。その弊害になるものは直ちに取除く。それだけだ」

老いも病もない。究極の世界。
何かを改変するような事態は、とっくに過ぎ去ってしまっている。なぜならここは、もうすでに完璧に整えられた世界なのだから。

「我々は、変わる事は許されないのだ」

セラちゃん、とユーナはひょうきんな表情を崩して口を開く。

「怒らせるつもりは、ないんだけどね。自分で言ってて、「それって、おかしいなぁー」って思わない?」

セラは光の宿らない真紅の瞳でユーナを見つめ返す。黙して答えないが、その双眸は強く揺るぎがなかった。






.

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ