DASH

□昔のはなし 3
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ユーナは不安そうに呟いた。確かにそうだけれども、外部記憶装置などという物を無許可にこしらえる時点で、システムの敷いた軌道から反する行為といえる。大抵はそうなる前に、イレギュラーとして処理されるだけの話だ。本来ならば。
そう思案するセラに、ユーナは明るく声をかけた。己の失態を気にしているのかいないのか、彼女は平常どおりの様子を見せる。

「はい、じゃぁ、その音声データとやらを聞かせてもらいましょうか?」

セラは微かにため息をついて、再び装置に命令をする。機械に読み込まれたデータが無機質な声によって再生されていくのを、二人のマザーは黙して聞き入った。



『これは我々が、旧施設に関連があると思われる物体―以降「菱形体」と呼称する―を発見した経緯と、現時点で判明しているその特徴を記録したものである。この記録は菱形体を処理するのを目的としており、すでに不特定多数の媒体に保存されている。

停止状態にあった旧施設に異常を確認。緊急体制の下、旧施設内部より菱形体が回収される。三等司政官ロックマン・ラウンドの管理におかれ、解析と処遇方の解明を開始。旧施設は一時的に稼働していたが、菱形体の回収と同時に機能の停止が確認された。

菱形体は長さ5センチメートル、幅3.5センチメートルの小型の物体。形状はひし形、色は漆黒。主成分、形勢手段及び有効な破壊手段はいまだ不明。またこの物体自体が旧施設に関する何らかの媒体である可能性がある。
接触した個体に対する同化能力を有しており、その精度はきわめて高く慎重な対処が必要である。すでに職員に被害が相次いでおり、これによるイレギュラーは旧施設側の動向をとり、突発的な暴走状態に陥ることが確認されている。

三等司政官ロックマン・ラウンドがその処理を取仕切っている。しかし、同司政官はこれを独断で管理する権利行使資格を有しておらず、以下約20名の職員と共に集団組織型イレギュラー化の嫌疑が確認されている。業務の運営に支障はきたしておらず、発見には至らない模様。

今後の経過如何によっては、この記録をシステムへ提出する必要があるかもしれない。しかし今はそれを保留し、ここに残すのみとする』




「・・・・・」

「・・・あの・・・ね?言い訳させてもらうとね、旧施設のちょっとしたイザコザって、けっこう頻繁に起こってるのよ?」

ユーナは恐る恐るといった風に、そう切り出した。セラは黙ってそれを聞いていたが、明らかに表情に暗雲が立ち込めている。

「勿論、あの施設が機能してるなんて事は、在り得ないわよ?でも何かのきっかけでピコーンて動いたり停止したり・・・・・古いんだから、あるじゃないそういうの?その手の報告はいつも受けてて、いつも大したことなく終わってるんだよね」

「・・・・だから、今回もそうだと思った、と?」
セラの声はひどく冷たい。

「そうして、今回ばかりは、大した事であった訳か?!」

「だ、だってぇ〜、こいつら隠すの上手すぎるんだもの〜!イレギュラー行為なんて毛ほども見せないで、施設の運営だってキチンとしてたんだよ?運営に関してトラブルは一切ないもの」

あたふたと慌てながら、ユーナはすでに開き直って白状しだした。

「気づかないよ〜そんな奴らがイレギュラーだったなんて。あたしだって、もぉの凄く悔しいんだから!」

「・・・・この件の問題点は、いくつもある」

セラのいつもの淡々とした口調には、どこか刺々しいものが含まれていた。

「そもそも、このデータを持ち込んだものは、菱形体とやらの破壊を目的としていると言っていたが・・・それならば何故この情報を通常の手段で提出しなかったのだ。労してヘブンへこなくとも、地上のユーナに渡せばそれで済む。しかもあれほどの情報をそろえていれば、報告が必須事項なのは自明の理だろうに」

「そうよね・・・どんな理由があるにしろ、あたしたちに何にもお伺い無しじゃ、立派なイレギュラー行為だし。第一ヘブンに突撃なんて、自分たちがボロボロになるじゃない。よくできたわよね」

「それに三等司政官を含む集団イレギュラー。奴らは最も性質の悪いイレギュラーだぞ。通常業務を装えるならば、いつでも狂うことが出来るという事でもある。本性を現す前に、迅速な処理をしろ」

「まかせろっ」

「後、イレギュラーの発生を十分に認知できる体制を、我々は取れていない・・・これらの原因究明と解決は、今スグにでもなされていなければならない」

「はいはいはい!わかってますよ、もう。怖いから、そんなに睨まないでー」

ふん、とセラは低い声で一息入れる。旧施設は地上に残されたのみで、セラが収める地球外施設には存在しない。それを一手に引き受けているのは自分ではなくユーナなので、これ以上強く言うこともない。



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