OBR

□中盤戦
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「そうは限らないよ。今回は屋内戦ですし」
「へーぇ、屋内と屋外で変わるんですか、そういうの」
「傾向としては、屋内戦の方が進行具合は速いね」
「ヒッ!け、蛍光…?!」
「蛍光じゃなくて、傾向です」

そんな意味不明なやり取りをしているうちに、また一つ二つと電話がかかる。そのうちの一つがお偉い様からのものらしく、今度は父屋が出る番となった。見えない相手に背筋を伸ばして、すっかりペコペコモードだ。

一呼吸ついて落ち着いた亜新は、床を蹴って椅子ごとスライド移動する。

「…なんか話しきいた感じじゃ…今回って、あたしが言った通りかもよ?」

隣りに座る軍人の流加に椅子ごとぶつかって、そう言った。近くにいても遠くにいてもほとんど変わらない、恐ろしく影の薄い男だ。

「……」
「ズルズル」
「ってあんた、なに一人で早弁してんのよ?!」
「…ゼロ距離になんなきゃ、気づかないんだ」

そう切なげに呟いて、流加はすすった「焼きそば弁当」を飲み込んだ。自らの地味スキルをフル活用してみたは良いものの、その効き過ぎな効果にショックを受けているようだった。

「それで、なに?なんか言ってたっけ」
「だからさ。今回のコレ、新人育成が一番の目的なんじゃないかってこと。生徒の面子は無難。お上も長引かせる気は無し。そんでもって、あたしらは半分以上が大卒の新人ときた」
「ふーん。まぁそうだね。新人育てるのには、ちょうどいいかもね」

亜新は納得いかなかった。プログラム管理といえば、軍の実践プロフェッショナルという体裁が立ち、キャリアに箔がつくものだ。それに賭け事関係で必然的にお偉いさんが注目するので、面目の見せ所といえる。
それなのに、やってることは研修まがいだなんて。大学の延長じゃあるまいし、嫌気がさすというものだ。
しかも肝心のお偉いさまは、今回ノリがお悪いという。これではただ忙しくしているだけじゃないか。

「うあー、やってらんね!」
「ズルズル」
「で、あんたは誰に掛けてんの?」
「命で賭け事しない」
「へーぇ、高尚だこと。馬もしないわけ?楽しいじゃん、競馬」
「いやだよ。くさい」
「くさいって…あんた、そんなんで臭いんじゃ、コレの後始末はどうなのよ」

亜新は呆れたようにモニターを指差してそう言った。プログラム終了後の死体の回収も、勿論亜新たち軍人の役割りだった。
突然、二人の前でモニターの監視に当たっていた新人くんが立ち上がる。真っ青な顔で口元を押さえ込みながら、部屋の外へ全力疾走して消えてしまった。

「あーぁ。かわいそうに」
「なに今の」
「亜新の台詞で、前の思い出しちゃったんでしょ」
「は?ヘッタレだなー」

忙しいのになにやってんだよ、と怒る亜新と、顔色一つ変えず焼きそば弁当を頬張る流加の後ろに、人影が立つ。

「そういうのより…パチンコの方が楽しい」
「それ賭け事じゃないし」
「でも楽しい」
「うっわー…今なんか、上下スウェットで台回してるアンタ、めっちゃ想像できた…」
「亜新ちゃん。元気なのはとっても良いことだけれど、お喋り声が大きいわよ。あら、流加ってばおいしそうなもの食べてるじゃない」

「げっ」「ぶふっ」と二人が振り向くと、母沢がニコニコと両者を見降ろしていた。

「二人とも言いたい放題なのは全然構わないけれど、少し声を小さくしなきゃ。今、お父さんが大事な人とお話しているのよ?万一電話越しに聞こえちゃったら、お父さんが恥ずかしい思いしちゃうでしょう」

「も、申し訳ありません…」
「でも、モチベが上がりませんってこんなんじゃぁ。そりゃお仕事だから、くそまじめにしますけどもね。せめて次からは、ケータイテレビの持ち込みとか許可くれません?」

恐れをなして黙り込む流加とは対象的に、亜新がそう口答えをする。母沢はニコニコしたまま負のオーラを放ち始めた。

「もう、そんなに文句ばっかり言って…だったらお母さんは上官の権限をもって、そうねぇ……亜新ちゃんの軍服と制服全てを蛍光ピンクにs」
「イヤーーッ!それだけはイヤ!!」

まじめにやります!と真っ青で自分のデスクに戻る亜新に、母沢は満足そうに頷いた。流加は、クビとかじゃないんだ、みたいな事を呟いたが(幸い)誰の耳にも聞き入れられなかった。

「言っておきますがこれは教育研修でもなんでもなく、プログラムという本物の任務ですからね。まじめにやって当然です。勘違いしちゃダメですよ」

ちょうどその頃、父屋の電話がやっと終わった。ガシャコンと受話器を置いて一息ついている。

「やれまいったぁ。結局誰が勝ちそうか、なんて言われてもなぁ。やれやれやれだ」




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