short story

□アンケ1位SS蓮×忍
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「いや、お前が先に入れよ」
「俺はいいからお前が入れ」
動揺している事を気取られぬよう素っ気なく言えば、蓮がすかさず返してきた。
何故?…と、つい疑わしい眼差しで忍は見てしまう。
頭の中で想像されるシーンは、シャワー中に浴室へ侵入され、逃げ場を失う危機的状況である。


「俺は風邪ひいても問題ないが、お前はマズイんじゃねぇの?生徒会の仕事に支障がでるだろ。だから先に入れよ」
「…ああ…うん、そうだな」
しかし、尤もな理由を説明されて、忍は内心安堵というより拍子抜けしてしまった。
いきなりラブホに引っ張り込まれたから混乱してしまったが、少し考えれば解った筈だ。他に雨避けが無い山道で、唯一見つけた雨宿りの場所がたまたまラブホだったというだけ。
外部から来た蓮にとっては男と一緒に入ったとしても、意識するような事ではないのだろう。
「じゃあ先に入るぞ」
変に勘ぐった自分がひどく恥ずかしくて、忍は足早に浴室へと入った。






温かい湯を浴びて身体が温まったお陰だろうか、浴室を出た頃には忍もすっかり落ち着きを取り戻していた。
バスローブに袖を通して浴室を出ると、暖房の暖かい風が当たる場所に椅子を置き、蓮が濡れた服を乾かしていた。
ボトムは履いていたが、蓮は上半身裸だった。きれいに逆三角形を描く均整のとれた背中は、無意識に忍の目を釘付けにする。
その視線に気付いたのだろうか、不意に蓮が振り向く。
「何だ?」
「…いや、お前も入ってきたら?」
「そうする。濡れた服は此処に掛けておけよ」
すっかり冷えきったらしく、蓮は腕を擦りながら浴室へと消えた。
自分を気遣ってシャワーを譲ってくれた為に、蓮の方が風邪をひいてしまいそうだった。申し訳なく思いながら、何気に見遣った先には例の丸い大きなベッドがある。


「・・・・・・・・・・・・・・」


忍はつい好奇心からそのいかがわしいベッドへ近付いた。
何せこのてのホテルなど利用した事がない忍である。良家の子息らしく、泊まるのは一流ホテルばかりだ。
何故ベッドが丸いのか?それにベッドボードの上に備え付けられた棚には色々なボタンがあったりで、興味を引かれてしまうのは仕方がない。
思わず忍は片膝をベッドに着いて身を乗り上げると、幾つか設置されているボタンの一つを押してしまった。



グイン…!



「うわっ」



その途端、ベッドがうねるように動き始める。
バランスを崩してベッドに倒れこんでしまった忍は、慌ててスイッチを切ろうとしたが、ベッドの中央が相変わらずグイングインとうねっているのでなかなか指先の標準が定まらない。
まるでロデオやどこぞの乗馬を模したダイエット機器のような状態だ。
しかも、やっとの事でボタンを押したら違うスイッチを押してしまったのか、今度はベッドが回転し始めてしまうのだった。
「ちょ…待っ」
焦る忍だが既に遅い。
ベッドはロデオ状態に加えてメリーゴーランドのように回っているので、とてもじゃないが停止ボタンを押せる状況ではなかった。
スイッチに触れそうになるとすぐに指先はボタンを掠めて移動してしまう。当然である。ベッドは常に回転しているのだ。
既に忍はパニックに陥っていたが、それでも必死にボタンへ手を伸ばす。


名門校の生徒会長であり、大勢の生徒達の羨望を受けているこの自分が、ラブホの一室で訳の分からないベッドでぐるぐる回りながらロデオをしているとは。


こんなところを誰かに見られたらーーーー特に蓮に目撃されたら憤死ものである。
しかし、悲しいかなこの部屋には忍と蓮しか居ないのだ。




「ーーーーーお前何やってんの?」




今一番聞きたくない声に話し掛けられ、傍目にも判る程に忍の体がビクリと跳ねあがる。
見遣ると奇妙なものを見るような眼差しで、蓮が自分を見ていた。





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