novel

□trust−プロローグ−
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果てしなく続く荒野を、男が独り歩いていた。
草木がまばらに生えているだけの痩せた土地には、人どころか動物の気配さえ伺えない。
男の足元を、時々乾いた風が通り抜けた。
旅人…というには一枚の薄衣を身に纏っただけの男の軽装は、あまりにも無謀に思える。
決して男が目的のある旅路でないのが見てとれた。
それは今にも地に伏してしまうのではないかと危ぶまれる程の、覚束ない足取りからも明らかだ。
背中に傷を負っているのか、今も白い衣を真っ赤な鮮血がじわりじわりと滲んでは染めていた。
脚の間を伝い落ちる血も、乾いた大地にポツリポツリと男が歩いた痕跡のように点を描いている。
男の唇が、ふと何かを呟いた。
無意識のうちに…譫言のように。
同時に頬を伝い落ちた一筋の涙は、まるで救いを求めるかのようだった。







呟かれたのは求めて止まない愛しい人の名。














だが、いくら俺が呼んでもお前は来ない。


お前が愛してるのは俺じゃないから−−−−−−−。
















 

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