short story

□アンケ1位SS蓮×忍
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目の前で腹を抱えて爆笑している蓮を、忍は羞恥と怒りで顔を真っ赤にしながら睨み付けていた。勿論、相変わらずベッドは回転中である。


忍にとってはこんな屈辱的な経験はないだろう。今まで忍のやる事成す事、皆が感嘆の溜め息を付いて見つめていたものだ。
このように馬鹿笑いされる対象になった経験など、過去一度たりともない。
「あっはっはっ…マジで…やべ…は、腹痛ぇ」
「・・・・・・・」
笑い過ぎて目尻に涙を溜めながらまだ止めようとしない蓮に対し、忍は怒りのあまりにブルブルと震えだした。



「ーーーーーと…停めろ!!!!!」



まるで溜まりに溜まったマグマが噴火したような怒声でもって、忍の激が飛ぶ。


「あっははは・・・・あ?」
「早く停めろって言ってるんだ、篠宮!!!!!!」
ギロリと睨みあげて怒鳴る忍の気迫は、他の者なら恐ろしさに震え上がりそうなものだった。
「…あ、そうだな」
けれど蓮はたった今気付いたように呟いて、呑気な様子で幾つも並んだボタンを考えるよう見下ろしている。
「早くしろ!」
「威張るな。止めてやらねぇぞ」
焦れて叫ぶ忍にそう言い置き、蓮は彼を黙らせた。ベッドでロデオをしながらメリーゴーランドで遊んでいるようにしか見えない姿で凄まれても、蓮からすれば笑えるだけである。
とりあえず蓮は一番端のボタンを押してみた。
すると天井から降りてきたブランコが忍の頭に直撃してしまう。
「篠宮ぁ〜っ!」
「悪いな、けど俺だってこんな時代遅れのラブホなんて知らねぇし」
ちっとも悪びれていない態度で言い募り、蓮が隣のボタンを押すと漸くベッドの回転が停止した。
そしてロデオのボタンが更にその隣らしく、あんなに忍が必死になっていたのが馬鹿らしいぐらいに呆気なく元に戻る。
漸く安堵の息を付き、忍はグッタリとベッドへ倒れ込んだ。
何だか、酷く疲れを感じて重い溜め息を付いてしまう。
今日は厄日だ…と、内心嘆きながら忍は目を瞑った。
このまま何も考えず寝たい気分だ。


「で、生徒会長様は何であんな事をして遊んでたんだ?」


不意の嫌な質問に、忍はギクリと体を硬直させる。ちょっとした好奇心で弄ってみたなんて、プライドの高い忍には言える筈がない。
少し薄目を開けて蓮を見てみると、意地の悪い笑みを浮かべて自分を見ていた。
何と答えて良いやら分からず無言を通していると、いきなり鼻を摘ままれる。
「…このっ」
咄嗟に飛び起きて腕を振り払った忍が、反撃とばかりに蓮の頭を叩こうとしたが、難なくかわされてしまった。
「一発殴らせろ、篠宮」
「冗談。そんなボランティア精神俺には無いんでね」
口も達者ながら、どこか人をからかうような態度が余計に腹立つ。そもそもラブホなんかで雨宿りする羽目になったのは蓮の所為である。



・・・・・・・・・いや、諸悪の根源はマリモか。



疫病神め…と心の中で毒づいていると、ガサガサと音がして目を向けた。
すると蓮が袋から酒瓶を取り出していた。
街中で遭遇した時、何やら袋を抱えていたので買い物をする為に外出した事は知っていたが、まさか飲酒目的だったとは。
「おい、お前酒なんて買ってどういう気だ!?」
生徒会長である自分の目の前で、堂々と飲酒しようとする蓮が信じられなかった。立場上見過ごす訳にはいかない。
「どういう気って言われてもな。呑む気だけど?」
「人の揚げ足を取るな!」
文句を言う合間にも、蓮は次々と別の袋から小さなグラスやライム等を取り出している。
それから瓶の蓋を開け、グラスに並々と注いだ。
「おい、マジで飲む気か?この俺の前だぞ!?」
「後で風紀に報告すれば?停学しようがどうでもいいし。とにかく俺は呑む。転入してこの数ヶ月間閉じ込められてストレスが溜まってんだ。マジでやってらんねぇ」
最後の吐き捨てるような口調から、蓮のストレスからくる苛立ちは相当なのが伺える。学園に転入する前は飲酒や喫煙、女さえも自由に手にしていたのだ。それが突然断ち切られた蓮からすれば、さぞや鬱憤が溜まっていた事だろう。
なにがなんでも呑むという固い決意を蓮から感じ取り、忍は黙ってその様子を見ていた。
蓮は果物ナイフまで購入したのか、ライムを半分に切ると一口齧った。そうして忍の見ている前で、迷いもなくグラスをひといきに呷ってしまう。
ライムの果汁と酒を口の中でシャッフルし、蓮は味わうようにゆっくりと喉の奥へ流し込んだ。
「・・・・・・・うめぇ」
久しぶりに呑んだ酒は余程美味だったのか、蓮は再びグラスに酒を注ぎライムを齧って一気にグラスを傾ける。
その光景を眺めていた忍は、もう何も言う気が起きずに黙って眺めているのだった。
自分との気分の差がえらくかけ離れているように思う。
煙草を吸いながら酒を呷る姿は随分と馴染んでいて、とても高校生には見えなかった。
彼は酒と煙草で機嫌が浮上しているらしいが、忍の方は対照的だ。
何をするでもなく、ぼうっと彼を眺めているしかなくて、退屈極まりない。


「相泉も呑むか?」
「え?」


あまりに忍が退屈そうに見えたのだろう、蓮が投げ掛けた問いに、忍は目を丸くして見つめ返した。



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