これがわたしの幸福論

□その3。
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「ハァー…しかしいいなぁ…海外かぁ……。ワシ、ここ千年くらい仕事以外で海外なんて行ってないしなぁ。」


「私もです。魔女の谷とかゆっくり観光したいですね。」


「ワシは現世がいいなぁ…世界の中心に旗を立ててチキンライスって叫びたい。」


「えっ、よしなさい!エアーズ・ロックを旗で突くなんて…地球のお腹が痛くなっちゃっても知りませんよ!!」


「君、チョイチョイお母さんみたいだな!?」



はた…、そう心の中で呟きながらオムライスに刺さっている小さな旗をみつめる。


鬼灯様が地球に優しくなさい!!と大王さんに金棒をゴリゴリ押し付けているけれどわたしは気にせずその旗を抜き取って、掲げてみせた。



「君がワシに優しくない!!……あれ?紅ちゃん?」


「ちきんらいしゅっ!!」


「紅、そのまま!!そのままの体制を少しだけ維持してください!!」


「……鬼灯君、君…紅ちゃんに対して親バカすぎない?」


「現在進行形で孫溺愛中の人に言われたくはありません…が、否定はしません。」




可愛いですから、紅は。と言いながら携帯でぱしゃりとわたしを撮る鬼灯様に大王さんは仕方ないか…紅ちゃん可愛いもんね…と頷いていたのをわたしは首を傾けながら見ていた。



「あ、そういえばオムライスの中身ってチキンライスですよ。突き刺します?」


「おぎゃ。」


「突き刺さないんですね。」



だって、オムライスを食べるのにお邪魔になるんですもん。けどこの旗は素敵ですから持って帰って家族である金魚草のみなさんに見せてあげるんです!と何処か残念そうな表情の鬼灯様に笑いかけながらわたしは小さな旗をお皿の端っこに置いた。


あ、それよりテレビ…とわたしがテレビに視線を移すと鬼灯様もつられるようにテレビを見出した。



「…でもオーストラリアは私も行きたいです。」


「綺麗だし独特の自然がいっぱいだしねぇ。」


「ええ。それに……コアラめっちゃ抱っこしたい。」


「コアラッ!!?」



あ、このもふもふした動物、コアラさんっていうんですね。初めて見ました…。


コアラを抱っこしたいと拳をぐっと握る鬼灯様に大王さんは驚いていましたがわたしはびっくりしません。


鬼灯様、動物が好きなんですよ。



ちなみに、白澤さんのお家にいるモフさん達は兎さんという生き物らしいです。

わたしはコアラさんも素敵だと思いますが兎さんの方が好きです。と思っているとやっと席に着いた大王さんがあわあわしだしました。



「君、どっちかっていうとタスマニアデビル手懐ける側だろ!?」


「失敬なっ!どちらかといえばワラビーとお話したい側ですよ!」


「君の頭ん中、割とシルバニアファミリーだな!?」


「ワラビーはかなり可愛いのに……カンガルーはよく見ると妙にアンニュイ……でもカモノハシは割と……」


「君、何でそんなオセアニアの動物に詳しいんだ!?」


「動物を扱った書籍やテレビが好きなもので…鳥獣戯画もリアルタイムで読んでましたよ。」


「高山寺の御坊による連載だったのかあの国宝……」


「………おぎゃう。」




完全におふたりの世界です…。


わたしがもっと勉強していればこの会話についていけるのですが…無理です。分からない単語が多くてついていけません…が、多分動物のお話をしているのだと思います。


げせぬ、とテーブルにゴンッと額をぶつけると鬼灯様が紅には難しいお話でしたか?と優しく頭を撫でてくれました。



「そういや君、現世に出張した時よく動物園行ってるよね…アレ経費で落とすのやめてくれない?」


「あぁ、実地調査です。いいですよ上野公園…死ぬほど鳩がいますよ。」


「それいいの?」


「そして上野動物園にいるハシビロコウ達……彼らのあの距離感大好き。」


「ああ…あの鳥なんか君に似てるよね……」


「ほーずき、にてう?」


「似ているかどうかは知りませんが…紅、今度一緒に見に行きましょうね。」


「はいっ!」



現世、行ってみたいです!とがばっと顔をあげると鬼灯様は少しだけびっくりしたようなお顔をしてから頬を緩めてお味噌汁を啜りながらまたテレビにお顔を向けた。


鬼灯様に似ているハシビロコウさんとはどのような生き物なんでしょう…とドキドキしているとなんだかにこにこしていた大王さんが急にはっとしたようなお顔になっていきなりテーブルをバンッと叩いた。



「いっ…いかんいかん!!鬼灯君!ペットは小型にしてよね!」


「は?私は今のところ金魚しか飼っておりませんが…」


「ぺっと…?おぎゃ!」


「…紅は元々は金魚でしたけど、今は私の子供のようなものなのでペットではありません。だからそんなキラキラした目で自分がペットであることを主張しないでください。」



紅は私の家族です。と真面目なお顔でわたしに諭すように話す鬼灯様に、はいとお返事すると紅はいい子です。と少しだけ笑ってくださった。



「あー…あぁ、あの金魚草ね…あれさ…動物なの?植物なの?」


「どっちでしょうね…動植物ですかね。ああ、そういえば一番長寿の金魚が3mを越しまして…愉快ですよ?見ます?」


「愉快な仲間たちすでにいた!!」




あぁ、一番大きい方のことですか?穏やかな性格のとっても優しい金魚草ですよ!と腕をバタバタさせて主張すると大王さんは紅ちゃんは元気だねーと笑った。



……いいです。伝わらないのには慣れっこなのです。といじけると鬼灯様がわたしの頭を撫でてくださった。




「3mかぁ……じゃあ今年の金魚草コンテストはまた君の優勝だろうね。」


「あ、いえ…私は一昨年殿堂入りさせて頂きましたので今は審査員です。」


「君、色々やってるな。…アレの審査基準がワシにはよくわからないんだけど……」


「大きさの他に色と模様と…目の澄み具合と活きと…まぁ、詳しくは大会の規定書に……あ、あとなき声と……」


「鳴き声!?」


「何を驚いているんですか?大王はいつも聞いているではありませんか。紅の鳴き声。」


「おぎゃー!」


「え、鳴き声ってそっちの泣き声?っていうか紅ちゃんのおぎゃあって金魚草の泣き声だったのか…!」


「今更ですね。……飼い主が仕込む芸の一つとして大会の見所でもあります。」


「アレって君が品種改良したんでしょ?長い付き合いだけど未だに君のミステリーは尽きないよ。」


「そうですか?私は至って単純な男ですよ。ねぇ、紅?」



いえ、わたしはまだ鬼灯様のことをちゃんと理解出来ていないと思うのです。だからもっと知りたいです。と鬼灯様に寄りかかると鬼灯様は私より、紅の方がミステリーですよ。と呟いたのにはしらんぷりしておいた。



「鬼灯君の女の子の好みとか想像出来ないし…」



そんなわたしたちの姿を苦笑いしながら見ていた大王さんは急にそんな話題を持ち出してきて…鬼灯様の女の子の好み…?とわたしは首を傾ける。


すると鬼灯様はテレビの中のミステリーハンターのお姉さんを指差した。



「このコは割と可愛いと思います。早めにあの世へ来てほしいくらいです。」


「あ〜〜…君、こ〜いう感じが好きなんだー…てっきり紅ちゃんが好みです、なんて言うと思ってたよ…」


「紅はとても可愛いですよ。それから…別に顔の好みはあまりないのですが…虫や動物に臆さない人が好きですね。」


「あー…そうだろうね。今までの話を聞いていると…」


「そもそも動物をむやみにイジメたり捨てたりした人は不喜処地獄逝きですからね。」


「まぁね。それはダメだよね。人として。」


「やはりアナコンダに締め上げられても笑ってるくらいじゃないと…」


「やっぱり憧れてたんだムツゴロウさん!!」




あ、アナコンダさんは知ってます。お香さんのお友達の蛇さんのお仲間さんです!なんて思っていると鬼灯様にはやくごはんを食べるように言われたのでわたしはまたオムライスを食べ始めた。うん、美味しいです。




「君…デートとかどこ行くの?」


「生きている女性ならまず墓場へ。あの世にいる女性ならあのランドですかね。」


「何故亡者優先でランドへ……」


「いや…生者には貴女もいつかこうなるんですよ、という意味を込めて…」


「生くらい謳歌させてあげてよ」


「あと、明るい女性も好きですよ。」


「君に明るいほうがいいとか言われたくないだろうけど……」


「何てこと言うんですか。こんなに日々明朗快活に過ごしているというのに」


「君の表情からは一カケラも明るさが読み取れないんだけど……あ、でも紅ちゃんが関わると少しだけ雰囲気が柔らかくなるよね、君。」


「そうですか?…あ、紅…また口元にケチャップがついていますよ?」


「おぎゃあ?」



え、またついてますか?と自分で拭こうと手拭いを取り出す前に鬼灯様がわたしの口元を拭ってくださる。



「はい、綺麗になりましたよ。」


「ましたー!」


ありがとうございます!とぺこりと頭を下げてから今度はゼリーの器ににスプーンをぶすりといれた。



「……ま、まぁ不満うずまくこの現代で日々楽しいなら何よりだけど……」


「不満を感じたら即発散してますから。」


「おぎゃ…。」



そうですね。鬼灯様はすぐに金棒を取り出しますもんね。大王さん…どんまいです。と心の中で呟いていると鬼灯様はストレスの発散は大事ですよ、紅…とわたしの頬をふにふにと突っついた。


「……それでもたまには旅行くらい行きたいです。」


「行きたいねー」



旅行…ですか。
テレビでみたことがあるので知ってます!色々な場所へ行って遊ぶのですよね!


わたしももっと、広い世界を知りたいです…と思いながらゼリーを食べていると大王さんはまぁでも…と呟いて腕を組んだ。



「旅行ってねぇ…企画してチケット取って宿予約して…って結構大変だからね〜…ま、結局いつかね、って話になっちゃうよね。」



旅行って大変なのですか…と大王さんのお話を聞きながらテレビに目を向けると女性の方がクイズでパーフェクトを出していておおーっとなった。


パーフェクトとは、全問正解の意味なのです。この番組を何度か拝見している内に覚えました。わたしは賢い金魚草なのです!



……と、鬼灯様と大王さんが急にテレビにお顔を近付けて…鬼灯様があ、と声を漏らしました。



なんですか?とわたしも画面をみましたが残念ながらわたしはひらがなを辛うじて読めるくらいなので難しい文字は読めないのです。



なんて書いてあるのですか?と聞こうとした瞬間、大王さんがガタリと音を立てて立ち上がった。



「当たってる!?オーストラリア4日間の旅!!」


「閻魔大王!私、有給頂きますよ!!止めても行きますからね!!」


「むしろワシも連れてけよ!!」


「嫌です!!」




オーストラリア?旅?と首を傾げるわたしに鬼灯様はスケジュール帳とペンを取り出して紅も一緒に…と言いかけたけれど、あ…と呟いて残念そうに肩を落とした。




「紅はまだ…現世には行けないんですよね……」


「え!?なんで!?」


「身体のことがあるので…もし気候があわなければ命に関わる可能性もありますから………私的には非常に不服ですが、私が旅行へ行っている間はあのアホ…いえ、白澤さんに紅を預けます。そろそろ診断してもらって新しい薬を調合してもらおうと思っていたところですから……。紅、すみません…またお留守番させてしまいます…。」


「おぎゃ!」




分かってます。だからそんなお顔をしちゃだめですよ?鬼灯様。わたしはそのお顔が苦手です。と鬼灯様の頬をぺちぺちと軽く叩くと彼はお土産、沢山買ってきますね。と少しだけ頬を緩めてわたしをぎゅっと抱きしめた。




「あ、そういえば…白澤さんのところには今、桃太郎さんが働いていらっしゃいますから桃太郎さんのお手伝いもしてあげてください。」


「ももたりょ…しゃん?」


「はい、あの絵本の桃太郎さんです。」


「おぎゃあ…っ!?」




え、桃太郎さんに会えるのですか!?でも鬼灯様、退治されないんですか!?とあわあわすると私は強いので大丈夫です。と笑ってくださったのでわたしはほっとしました。



「紅、もし寂しくなったら…」


「でんわー!」


「はい、よく出来ました。今回はお仕事で行くわけではないのでいつでも電話してきてください。気を遣ってはいけませんよ?私たちは家族なんですから。」


「はいっ!」




鬼灯様は優しいです。

なんて思いながら鬼灯様を見上げてにこりと笑うと鬼灯様はいい子にしているんですよ?とわたしのおでこにちゅっと唇を落とした。
















(桃太郎さんってどんな方なんですか?と首を傾げたわたしに鬼灯様は会ってからのお楽しみです。とわたしの唇に人差し指をとん、と重ねた。)

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