大海の金魚姫

□08.
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「紅、来い」



「あいあい」






キャプテンに呼ばれて側に行くとキャプテンは自分のお膝をぽんぽんと叩く。

…座れって言ってるんですかね?と首を傾けるとはやく来いと急かされ、おとなしくキャプテンのお膝に座るとキャプテンは満足気にわたしの頭をがしがし撫でた。





……キャプテンは、わたしと誰かを重ねて見ているんだと思う。それが誰なのかは分からないけれど、キャプテンにとってとても大事な人なんだろうということはなんとなく分かる。




たとえ誰と重ねて見ていようとも、わたしはわたし…キャプテンには悪いけれど、わたしはその大事な人の代わりにはなってあげられない。







「ごめんねきゃぷてん」




「それは何に対しての謝罪だ?」




「…なんとなく、いってみただけ」






キャプテンはきっと無意識に重ねているから、理由は言わない。言ったらきっと、キャプテンは傷付いてしまうから。わたしはキャプテンが傷付くのは嫌。だから秘密にしておこう。と思いながらペンギンさんにもらった飴の袋をあけているとどうしたんだそれ?とキャプテンは首を傾げた。






「ぺんしゃんがくれたの」



「ペンギンが?」



「ん、きゃぷてんもたべりゅ?」



「おれはいい。…そうか、ペンギンが、な…」






いつの間にこの船に溶け込んだんだ?ペンギンは警戒心が強かっただろう?と笑うキャプテンはとても楽しそうだけれど…なんだかとても優しいお声で、わたしはぺんしゃんはいいひと!と言ってにっこり笑ってみせた。





「ぺんしゃんはとってもまじめしゃん。いつもなかまのことかんがえてりゅ。しゃちしゃんはあかるい、いっしょにいてたのしいきもちになりゅ。べぽしゃんはかわいい。ふわふわ!きゃぷてんは…おぎゃ、きゃぷてんはきまぐれだけど、いいひとだとおもうの」




だって、桃源郷から落ちてきたわたしをひろってくれた。とつぜん降ってきたなんて我ながら怪しさ満点だ。なんて思いながら飴を口に含むとキャプテンはきょとんとしたお顔をした後、気まぐれ、な…と言って笑った。






「確かに気紛れだな。…空から降ってきた子どもなんて怪しさ満点だ」



「でしょう?」



「でも、紅は特別だ」



「?」



「お前は嘘をつかない。おれの目を真っ直ぐ見て話す。それだけで充分だ」






綺麗な目だな、とわたしの目元を撫でるキャプテンは穏やかで今日はご機嫌がいいのね、と思ったわたしはきゃぷてん!と彼のことを呼んでぎゅっと抱きついた。






「きゃぷてん、ありがと」



「?」



「わたしをたすけてくれた。かんしゃ!」




「ククッ、おれもお前に会えて良かったと思う」







こんな純粋な笑顔は久々に見た、とわたしを抱きしめ返すキャプテンにわたしはおぎゃあ?とないてみせる。





「……聞いてもいいか?」




「なぁに?」




「その身体、どうした…?」




「………だいしょう」




「代償?」




「ひとのすがたになっただいしょうなの。…でも、こうかいはしてないよ。ほーずきとおはなしできるようになって、いろいろなせかいをみることができて…じゅみょうがみじかくてもいいの。わたし、たくさんしあわせ、みつけたよ?」






もちろん、キャプテンと出会えたこともわたしの幸せです、と笑うとキャプテンはそうか、と言ってぎゅうっとわたしの身体を強く強く抱きしめた。






















(人の姿になった…?じゃあお前は一体何だったんだ?と紅の耳に囁くようにそう言うと紅はわたしはきんぎょそう、こころのあるきんぎょそう、と言って綺麗に笑ってみせた)




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