大海の金魚姫
□06.
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「きゃぷてん、おねんねしないとくましゃん、なおらないよー?」
だからかもん!とお布団をぺしぺし叩くとキャプテンは難しそうな本からわたしに視線を向け、眉間に皺を寄せた。
「先に寝てろ。良い子は寝る時間だ」
「きゃぷてんもいいこだからおねんね」
「生憎、おれは良い子じゃねぇ」
……なんだか鬼灯様みたいだ、と遠くにいるであろうわたしの保護者様が頭に浮かんだ。鬼灯様もお仕事をするためによく徹夜してた…けれど、鬼灯様はわたしが眠るまではずっとお布団に入ってぽんぽんとわたしの頭を撫でてくれて……と、わたしはその思い出を振り払うように首を振ってからもう一度キャプテンを呼んだ。
「…だから、先に寝てろって何度言えば…」
「おぎゃ、ひとりはおちつかない」
「……」
いつもは鬼灯様と寝てるから…落ち着かないんですよね。ここへ来てから何度か寝たけれど、キャプテンはいつもキャプテンのベッドにわたしを寝かせて自分はソファで本を読んでいる。…この人、いつ寝てるんだろう?とベッドを抜け出してキャプテンの膝に座ってからキャプテンの頬をぺちぺちすると仕返しとばかりに頬をむぎゅうーってされる。ひどい、キャプテンひどいです。わたしは心配しているのに、と頬を膨らませるとお前は表情豊かだな、と笑われる。
「そうだな…あと5ページ読む。それまで待てるか?」
「まてるよ!」
「ククッ、じゃあ大人しくベッドで待ってろ。読み終えたらおれも寝る」
「やくそくね!やぶったらだめよ?」
「あァ、分かってる」
そう言ってぺらりと本のページをめくるキャプテンをみてわたしはぜったいよ?と念押ししてベッドに戻った。
「………」
「………きゃぷてーん」
「………」
「おぎゃああああああ!!」
やっぱり無理です睡魔さんに勝てません!!と叫びながらベッドの上をころころと転がるとキャプテンは苦笑いしながら紅、とわたしの名前を呼ぶ。
「分かった。もう寝るから静かにしろ」
「おぎゃ!しずかにすりゅ!」
「フフ…元気だなァお前は」
読んでいた本を机に置いてベッドに座るキャプテンの腕にぎゅっと抱きついていっしょにねりゅ!と言うと分かったから落ち着け、と頭を撫でられた。
「……眠いか?」
「ん、ねむい…」
「じゃあお前が眠るまでここにいる」
「だめ、きゃぷてんもおねんねしゅりゅの!」
隈が酷くなります!という意味を込めておぎゃあとないてキャプテンのお目目の下をそっと撫でるとキャプテンはくすぐったそうに目を閉じた。
「…分かった。寝る。その代わり紅、お前…抱き枕になれ」
「だきまくりゃ?」
いいですよ、それくらい…とわたしがお返事する前にキャプテンはわたしを抱きしめてベッドにぼすんと横たわった。
「…体温、低いな…大丈夫か?」
「おぎゃ、わたしはこれがふつうだからだいじょぶよ、きゃぷてん」
「…その身体、必ずおれが治してやるからな」
待ってろよ、確実に治せると確信するまでもう少しだからな。そう言ってわたしをぎゅうっと抱きしめるキャプテンの体温はとっても暖かくて、わたしはゆっくり目を閉じた。
(次の島でも本を漁るか…今のおれの知識では紅を治してやることが出来ない…薬の数も日に日に減っていく…薬がなくなる前に治してやりてぇ、おれの腕の中ですやすや寝息をたてる小さな紅の額にそっと口付けるとおれも久々にやってきた睡魔に身を任せた)
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