大海の金魚姫

□02.
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「とら…しゃん?」





連れて来られたのはお兄さんのお部屋らしき場所で、わたしはお兄さんの膝の上に座らされている。お兄さんの両腕がわたしの身体をがっちりと固定しているので逃げ場はない。どうしてこんな状態になっているのだろう?とお兄さんを呼ぶもののお兄さんは眉間に皺を寄せておい、とわたしの頬をつついた。




「トラファルガー・ローだっていってんだろうが」



「…べぽしゃんはきゃぷてんってよんでたよ、おにーしゃん」



「…じゃあキャプテンでいい。そのとらさんってのはやめろ」






呼び方が気に入らなかったのか、なるほど…と頷くとお兄さんはわたしが持っている薬の袋に視線を落とした。





「それは何が入ってる?」



「おくしゅり。わたし、これをのまないとしんじゃうから」



「…病気か?」



「びょーき?…おぎゃ、ちがう」






見た目では分からないけれど、わたし、内臓の位置や大きさが人とは違うらしくて、生きているのが不思議だと白澤さんからは診断されている。なんてわたしのボキャブラリーでどう説明すればいいのやら…と悩んでいるとお兄さんは診てやる、とぶっきらぼうに言うとわたしをベッドに座らせて机の引き出しから聴診器やらなにやらを取り出してくる。




…このお兄さん、お医者さんなのかな?と考えているとおれは医者だ、とお兄さんは呟く。






「紅、その薬を見せてみろ」



「はい」



「…見たことのねぇ薬草だな。薬から状態を特定するのは無理か…紅、脱げ。今から軽い診察をする。ちょっとの間目ぇ閉じてろ」





目ぇ開けんじゃねーぞ?と言うお兄さんにわたしは目を閉じる必要があるのだろうか…?と思いながらも服を脱いで目を閉じる。するとお兄さんはルーム、アンピュテートと呟いてから…なんだこれは…と息をのむ気配がした。






「内臓の位置がバラバラじゃねーか…大きさだってそうだ…人体実験か…!?なんでこの状態で生きてる…!?」





酷ぇな、これは…とお兄さんは声を低くしてわたしの頭を撫でた。





「……下手に弄れねぇ、今は治してやれねぇが必ず治してやる。…目、開けてもいいぞ」



「おぎゃ!」



「なんともないか?」



「おぎゃ!へーき!」





それより、なんで目を瞑らなきゃいけなかったんでしょう?と首を傾けるとお兄さんはがしがしと乱暴にわたしの頭を撫でてにっと笑った。





「おにーしゃん、いいひとね!」



「…!…紅、お兄さんって呼び方もやめろ」



「おぎゃ、きゃぷてん?」



「…それでいい。…あの頃のラミと同じ歳くらいか…それともそれより下か…紅、お前歳はいくつだ?」



「わかんない」



「…そうか」



「…きゃぷてん、いたいの?」



「何がだ?」



「じゃあ、くるしい?」






このお顔は知っている。鬼灯様が寝てる時、たまに苦しそうなお顔をする…それと一緒だ…。そう思いキャプテンの頬をぺちぺちと叩くとキャプテンは何でもない、と言ってわたしの手を掴んでぎゅっと握りしめる。キャプテンの手は少し震えていて、わたしがだいじょぶよ、ここにいるよ?と言って笑うと悪ィな、と弱々しく笑ってみせた。





「紅、」



「はい?」



「……いい女になるな、お前は」







将来が楽しみだな、と笑うキャプテンはもう弱々しくなくて、わたしは安心して頷いた。
















(…もう、二度と同じ過ちは繰り返さない。紅を妹のように死なせたりはしねぇ。会ったばかりの子どもにこんな感情を抱くなんざ、おれはどうかしちまったのかもしれねぇな…そう思いながらおれはその小さな手を握りしめた)



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